「はっ、ただのロケット団の下っ端……って訳じゃなさそうだなあ」
首の力だけで抵抗し、なんとか声を発して牽制する。
どうやらこの者達、自分達を殺すつもりは無いらしい。少なくとも今は。
「そうですねえ。ロケット団とは違いますねえ……。今は互いの協力者、といった具合なんですがね」
そう言って、男は自身の髭をすりすりと撫でた。
つまりは共謀者ってところか……と、兵太は眉を潜めた。まさか、ロケット団がこんなにも強いトレーナーを率いていただなんて。
誤算だった。
四肢を縛られて泣きじゃくっているリョウが、可哀想で仕方がない。
「貴方達の作戦の様子は、粗方聞かせて頂きましたよ。中々面白い作戦を考えましたねえ……。ああっ、リョウ君を責めないであげて下さいね? 彼から聞き出した訳ではなく、彼の懐中電灯から、盗み聞きさせてもらっていたんです」
白々しく話すカイゼル髭の男に、兵太は更に顔をしかめた。全く、他人の神経を逆撫でする様な喋り方をする。
そんな兵太の表情をみて気を良くしたのか、男はにやりと笑い、傍で転げているリョウの首からペンダント型の懐中電灯をするりと抜き取ると、こつこつとその電灯部分を叩いた。
「あははっ、くすぐったいよ!」
そう笑いながら勢い良く飛び出してきたのは、プラズマポケモンのロトムだった。
「ね、これで盗み聞きできるでしょ?」
にっこりと兵太に向かって微笑む男だが、その事実に最も驚いているのは兵太ではなく、横で震えているリョウである。
そのことを知ってか知らずか、知らないふりをしているのか……。男は尚、兵太に向かって話を続けた。
「貴方達、このパーティに参加したトレーナーのポケモンですよね? 一体どこに隠れていたんですか?」
「……」
「どうも大きな鼠が数匹、うろうろしているなあとは思っていたんですが……。貴方達だったんですね」
「……」
「先程ロケット団の方々から連絡が入りました。予期せぬ動きがあったようです。なんでも、迷子のジュペッタ二匹を保護したんだとか。……貴方のお仲間ですか?」
「……」
「貴方のお仲間ですか?」
「知らねえ」
そう応えると、男はにやりと笑った。
「そうですか」
そう言って、男はくるりと兵太に背を向けた。
その時である。
「ふぅんんっ!!」
「!?」
太い首を支点に、兵太は背後に居る相手に後蹴りを食らわせた。
怯んだ相手の影縫いは解かれ、自由になった両腕に兵太は力を入れた。そして。
「はぁっ!」
男が振り返った頃には、兵太はバルコニーの手すりを掴んでくるりと前転し、そのまま海へと身を投げていた。
海上を叩く音が聞こえるかと思いきや、そんな音は聞こえない。
急いで下を覗き込んでみれば、すでに十メートル以上は離れてしまっている、ウォーグルの姿があった。兵太が擬人化を解いたのだった。
「ふん、逃げられましたか」
暗闇でもう姿は見えなくなってしまったが、どうやら船首の方向へ飛んで行ったようだ。
全く、油断できないポケモンがいたものだ。そう思いながら、男は再度振り返り、未だにびーびー泣いているリョウの姿を見た。
自分がリョウ達をこれ以上傷つけるつもりがないということが、ばれてしまったのだろうか……。それにしたって、なんとまあ潔い退散だろうか。
男は肩をすくめた。
「まあ、リョウ君たちを餌に彼がやって来たことは不運でしたね。彼がこんなに強いポケモンだとは知りませんでした」
そして恐らく、頭の回転も早いのだろう。男は思う。
今ここで戦うには、あのウォーグルにとって分が悪すぎる。何せこちらには三匹のポケモンがいるのだ。
最初に奇襲をかけた一匹と、兵太をバルコニーに追い込んだ一匹、そして、ロトム。
更にまだ要るかも知れないと、彼は踏んだのだろうか。実際こちらにはもう手持ちのポケモンは居ないが、それでも彼の選択は正しいだろう。
「ふむ、いいでしょう。こちらも次の作戦です」
カイゼル髭の男が振り返る。
あっけにとられるリョウのことなど目もくれず、彼は何かを射抜く様な眼で、その部屋を後にした。
***