夢来と呼ばれた青年。彼は新へ、ニィ、と笑って返すと、周囲の敵陣へ向かって腕を振り被った。
どうやら新の仲間らしい。
「さっさと片付けるぞ!!」
掛け声と共に散らされた、無数の何か。
毒々しい色と形をしたそれは、ペンドラーである彼が放った毒菱(どくびし)であった。
周囲を囲んでいたポケモン達は、息を呑んだ。
「よっ! 増援サンキュー!」
「ああ?」
突然、夢来の背後から現れたのは先程遠目から見えていた、あのミルホッグだった。
そういえば、こいつは――……。
「お前、本当に俺たちの仲間なのかよ?」
片方の眉を上げ笑いを浮かべながら、ミルホッグに問う。
「当ったり前だろ! 新とはもうマブダチだ、マブダチ!」
「あっはは。何だよそれ」
そう応えながら、敵から向かって来る攻撃を攻撃で受け返していく。
背中合わせのまま、ミルホッグが尋ねた。
「お前、夢来っていうんだろ?」
「え? ああ、そうだ」
「俺は陽だ。夢来、よろしくな!!」
そう言うと、ミルホッグの彼はあっという間に駆けてゆき、戦いへと身を投じた。
夢来はふふ、と笑みを浮かべると、その姿をペンドラーへと変えた。
負けてはいられない。
こちらも大切な……大切な人を、救いに来たのだから。
ペンドラーの、地鳴りの様な咆哮が鳴り響いた。
「新さん、陽さんっ!!」
間髪を入れずに、空からの攻撃が始まった。甲高い鳴き声と唸るような強風がロケット団を襲う。
更に同方向から大きな波動弾が何度も繰り出されてくる。
たまらず、ツッカの船からのサーチライトで空撃の正体を暴く。
そこには満面の笑みをこちらに向ける、チルットの姿があった。
「うわあ〜っ、絆優〜〜っ!!」
新が思わず歓声を上げる。
彼女は、本当に大変な任務を全うしたのだ。小さなチルットの表情は疲労の色を隠せずにいる。
しかし今でも攻撃の手を止めない彼女の勇姿に、新は思わず涙目になる。
「絆優、無事だったんだな! おかえり!」
「ただいまです、陽さん!」
陽も敵に応戦しながら、彼女の帰還を喜んだ。
しかし束の間、背後からの爆風が。
「うおおっ!?」
突然の衝撃と風圧により、陽の身体はころころと甲板を転がった。
隅にあった艤装で背中をぶつけ、ミルホッグの姿が解かれる。
「いってえ〜っ! ……って、え?」
攻撃の元と思われた背後の敵。しかし敵は何故か、先の爆風で陽と同様に飛ばされて伸び上がっていた。
では、爆風の元はどこから――――。
考える隙を与えず、無数の爆風が敵陣へと続く。ポケモンの目にも見えづらいその攻撃は、無数の波動の弾であった。
攻撃の元を辿ると、そこには一匹のルカリオがコンテナの上を陣取って波動弾をこれでもかと打ちまくっている。
唖然としている陽の視線に気付いたルカリオは、彼ににやりと嫌な笑みを浮かべて言った。
「はは、悪ぃな。敵と間違えちまった」
……そんな高圧的な態度で言われても、である。
敵か味方か、頭に疑問符を浮かべる陽を他所に、ルカリオは周囲の敵を一掃していく。
果敢にも彼の波動弾を掻いくぐって接近戦に持ち込む敵もいたが、そんな敵もルカリオは容赦なく蹴散らしていく。
どうやら敵ではない…………らしい。
「あれは真想だよ。陽、大丈夫?」
新が砂埃を巻き上げ、陽に近付き助け起こす。
「大丈夫だ。でも何だ、あいつは」
仲間なのか、と訊くと、新は笑って応えた。
「仲間だよ。面白いやつでしょ」
そう言った直後、どん、どん、と巨大な音が敵陣の反対側に響いた。
夢来が物理攻撃を立て続けに放っているらしい。
新は原型の姿に戻ってひとり飛び立ち、上空から甲板を見下ろした。
先程から探しているのだが、どこにも見当たらないのだ。――――もう一匹の、仲間が。
その時である。
「総員。退避、退避ーーーーーーーーっ!!!!」
突如として響き渡る声。発したのはツッカの護衛だ。
混乱する陽や新を他所に、ロケット団とそのポケモンは猛ダッシュでツッカの船へ向かって走り去っていく。
「なんだぁ? もう終わりかよ」
鼻で嗤う真想は、呆れて攻撃の手を止める。
夢来、絆優も、相手に追撃することなく様子を見守った。
そこへ、大気を震わせる大きな声が響いた。
ツッカの声だ。
「悪いが、これで締めさせてもらう!! 砲台、目標を再度確認せよ!!!!」
見ると、ツッカの船に据えられている数台の大砲が、いつの間にか客船の中核を捉えている。
まさか、あれでこちらの船を砲撃するというのだろうか。
「そんな……!」
新は思わず、声を上げた。
頭から血の気が引いていく。
誤算だった。いや、船に大砲が詰まれていることすら、自分達は気付かなかった。
奴等は最初から、こちらの船を沈めるつもりだったのだ。
船の内部から爆破などしなくても、外側から砲撃されればこの巨大な客船だってひとたまりもない。
船は沈み、トレーナーも船員もポケモンも皆、海の藻屑となって消えるだろう。
ここは海の沖。後々船が発見されたとしても何故沈没したのか、潮で朽ちゆく巨船から解明することは、難しいかもしれない。
ツッカの眼光が、鋭く光る。
慈悲など、在りはしなかった。
「放てーーーー!!!!!!!!」
空を裂かんばかりの、雷鳴の様な叫び。
――――しかし。
「……!? 何故だ、何故、撃たない!!!!」
しん、と静まり返る空気。
ツッカが自身の船へ振り向く。そこには。
「あー……。なんか、わりぃ」
気まずそうに頬を掻く、ピンク色の髪をした青年が居た。