最終章(7/7)


一先ず夢来の手当てをしようと言い出したのは、ゆのだった。
救急セットを持ってこようと、皆が言い出した矢先――――。ずい、とおもむろに救急セットを差し出してきたのは、瞳だった。
瞳はこの土壇場でも冷静な判断ができる性格の様で、皆がやいのやいのと騒いでいる先の間、ひとりで傷薬や包帯、ガーゼなどの治療が必要な道具を集めてやって来たのだった。
怪我をしているのは、何も夢来だけではない。
先程まで死闘を繰り広げていたポケモン達は怪我をしているし、ゆのは膝に擦り傷を負っていた。
皆、各々で救急セットから消毒液や絆創膏を取り出し、自分や仲間の治癒に当たった。
瞳と陽が、夢来の腹に包帯を巻いている最中、瞳が言った。

「夢来はこういう時、いつも無茶すんだよ」

誰に言うまでもなく口に出したその言葉に、夢来は頬を掻き、陽は、へぇ、と相槌を打った。
仲間っていいなあ……と、陽はぼんやりと思った。

ブロロロ…………。

夜の空気を、無機質に裂く音が聞こえた。
何本かの白く太い光線が、上空をぐるりぐるりと舞っている。
遠くでは、人やポケモンの明るい声が響いてきた。
助けが来たのだ。

「海上警察のお出ましだな」

兵太が、深い深い溜め息を吐いた。
こんなにも早く助けが来たのも、全ては絆優のお陰である。
彼女の功績は、何も夢来達を連れて来たことだけではない。
警察へ通報し、想定される被害の規模を知らせ、船の正確な位置を伝え、海上警察をここまで導いたのだ。
同じ飛行タイプとはいえ、身分証明である主のトレーナーカードを持っていない――――否、現在自身のトレーナーと行動を共にしていない兵太には、成し得ないことだった。
未だ周辺海域をうろうろしているであろうロケット団は、今頃慌てているに違いない。
綻んだ兵太の表情をみて、ゆのとミツキは互いに安堵の溜め息をついた。
これでようやく、本当に助かったと言える。
疲れが一気に押し寄せてきて、ゆのは一瞬、強い眠気を覚えた。

「あはは。なんだか、眠くなってきちゃった……」

「ふふ、そうね。お疲れ様、ゆのちゃん」

「うん。みつみつも、おつかれー」

ゆのがミツキへ向かって、手のひらを差し出した。
一瞬、何のことだか分からなかったミツキだが、理解すると、あはは、と笑って手を重ねた。
ハイタッチだった。
それを見ていた陽は、夢来や瞳を見て言った。

「なあ。港に着いたら、お前等もイッシュに一泊ぐらいしていくだろ?」

「そりゃあ、まあな」

夢来が空を見上げて言った。
ゆのの眠気がうつったのだろうか……。急に瞼が重くなってきた。

「だったらさ、明日、皆が元気になったらバトルしようぜ!」

「バトルって……。あはは。陽お前、元気かよ」

「陽はねぇ〜、強いんだよぅ……。でも俺、また勝っちゃうんだから……」

会話を聞いていた新が、陽の肩を叩いて言った。
目をごしごしと擦っているあたり、彼もまた睡魔と闘っているのだろう。

「…………まじで眠い」

ぼんやりと、夢来の視界は濁っていた。
辺り一面が、やたら白く霞んで見える。
先程ちらっと見えた、海上警察のヘリコプターか何かの、白い光だろうか。
それにしては数が多い……というか、真っ白すぎる気がする。

「……」

いよいよ、自分も眠気には勝っていられなくなったようだ。
重力に身を任せると、意外にも心地の良い感触がした。
自分以外の赤髪が、微かに視界を掠めた。
船の揺れが、まどろみを誘う。

「おやすみ、夢来」

誰かの笑った声が、聞こえたような気がした。







どこかで波の音が、聞こえた。


***

最終章 了


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