来た、というかいらっしゃった。今日もあの人は素敵だった。一句詠むなら、花沢や、ああ花沢や、花沢や、って感じ。ほんとにもう、寝ても覚めても花沢くんの事ばかりでちょっと困ってる。そんな感じの事を同じクラスのモブくんに相談したら「なんか気持ち悪い」って真顔で言われた。なんで給食の牛乳が世界一似合いそうなモブくんと、スタバが世界一似合いそうな花沢くんが友達なのか未だによく分からない。でも出会いのきっかけはモブくんなんだから、そこは感謝している。一ヶ月程前の事だ。帰り道が途中まで一緒だったわたし達は「白線からはみ出たらサメに食われて死ぬゲーム」をしていた。その内白線ではスリルが足りなくなったわたしは、コンクリート塀の上をよじ上ってそこを歩く事にした。今思い返すと馬鹿だったと思う。「落ちそうになったら受け止めてね」とモブくんに念は押しておいた。「危ないんじゃないかな…」と呟く声が聞こえた気がしたけど気にしなかった。そうしたらわたしは転んだ。威勢良く伸びていた木の枝に足を引っ掛けて勢いよく転んだ。態勢を崩して、そのまま地面に顔から激突しそうになっていた時にわたしの身体はふわりと浮いた。いや、落ちている時点でも浮いていたんだけど、空中に静止して浮いたのだった。そして「影山くん、女のコをそんな所歩かせちゃ危ないよ」という爽やかな声が聞こえて来た。地面に足を付けて声のした方を見ると、イケメンがいた。自信に満ちあふれた表情の、カラオケが得意で服のセンスも良さそうで背も高くて女子に優しい爽やかなイケメンがいた。「夢…?」と呟くと「え?はは、なんか変わった子だね。彼女?」とモブくんに問いかけた。「全然」と返すモブ君に違うにしてももっと言い方あるだろ、と心の中でクレームを付けた。イケメンはわたしの方に近付いて来て「怪我してない?あ、僕は花沢輝気。影山くんの…まあ、友達かな。キミは?」と自己紹介をしてくれた。「××です…」と消え入りそうな声で言うと、「よろしく」と笑って握手を求めてくれた。わたしは恐らく汗でベタベタしていた手でイケメンこと花沢くんの手を握った。しかし花沢くんはわたしの手のベタベタなんか気にする様子もなく、「今度からは高い所に登ったら駄目だよ。あ、でも影山くんがいれば安心かな?じゃあね」と言って爽やかに去って行った。後ろ姿を見送っている3分間のあいだに、2人の女のコに声を掛けられていた。


「…も、モブくん…今の…王子様のような方は…」
「え?あぁ、花沢くんだよ。黒酢中の。」
「そうじゃなくて、なんであんなカッコいい人と友達なの…?何があったの…?」
「何って…色々…」
「モブくん、わたし、あの人の事好き」
「(早い)」
「応援してね」
「何を?」
「わたしの恋路」
「どうだろう、無理なんじゃ…」
「モブくんに言われたくない」



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