「俺、君が好きなんだよ」とさらりと言えてしまえる器量があればどんなに良いだろうと思う。そもそも好きって何なんだろう、どこからが好きなんだろう。手を繋ぎたければ好き?ハグしたければ好き?その人の事について色々考えたら好き?キスしたら?夜のオカズにしたり、性的な目で見れば好き?自分で考えてもキリがないので霊幻さんに「好きってなんですか?」と聞いてみたら「お前そんな思春期みたいな事考えてんの…?まあそれについては個人によって解釈の差があるからな、ちょうど良さそうだからモブと相談でもしてみたらどうだ」と言われたので影山くんと頭を捻り「好き」について2時間程考えてみたけれど、しっくり来る答えは見付からなかった。「お互い頑張ろうね」と互いを励ましつつ帰路に着く。今日が終わる。

布団の中で××ちゃんについて考える。今日話した事はどんな事だったか。「芹沢さん、大判焼き食べる?」「芹沢さん、霊幻さんが呼んでるよ」……これくらいだったかな、約二言。自分に向けられたそのたった二言を頭の中で何度も反復させる。俺、あの時あんな答え方で良かったのかな…もっと気の利いた言葉があったんじゃないかな…。最近は恒例になりつつある大反省会を一通り済ませると、目を閉じて××ちゃんの顔を思い浮かべる。俺の頭の中の××ちゃんは、いつも笑顔で霊幻さんとなにか話している。胸がなんて言うか、苦しいというか、心臓を人差し指と親指でつままれたような感覚になる。俺も早く××ちゃんと、笑って会話ができるようになりたいな。その前にはこの堅苦しい表情を何とかしないといけないな。お客さんだって、俺みたいなデカい奴が真顔で立ってたら怖いだろうし。…よし、明日はもっと頑張ろう。


「芹沢さんって彼女とかいないの?」と聞かれて思わず湯のみを落としそうになった。「あ、は、え」と吃音症みたいになっていると「霊幻さんもだけど、全然女っけないよね。どんな人が好きなの?」と聞かれた。どんな人って、××ちゃんみたいな人が好きなんだけど。言えてしまえばどんなに良いだろうと考えながら「俺より小さい人かなあ」と言った、あながち間違ってはいないし。××ちゃんには「芹沢さんより大きい女子なんて、見付ける方が大変なんじゃ…」と言われた。そういえば、前髪が少し短くなっている。その前髪可愛いね、と言おうとして「その、」まで言いかけたところで「そういえば××前髪切ったのか?」と霊幻さんの声が重なった。「あ!流石霊幻さん!ちょっとだけ切ったんだ」と嬉しそうにする××ちゃん。今日の反省点は「気付いた事はすぐに口に出す」だな、と思った。学校へ行って家に帰る。

布団の中で、口に出すという事の練習をしよう、と思った。「せりざわかつや」と自分の名前をゆっくりはっきり言ってみる。口を大げさに動かすと喋りやすいかも知れない。「××ちゃん」と言ってみる。「××ちゃん、××ちゃん」何だかいい感じかも知れない。明日は笑顔で××ちゃんに話しかけられるような気さえして来た。

「××ちゃん、好きだよ」


自分の声が暗い布団の中で響く。「好き、好き、好きだよ。××ちゃん」ゆっくり噛み締めるように声を出す。ここにもし××ちゃんがいたら、暗くて狭い俺の独壇場みたいなここにいてくれたらなぁ。目を閉じる。そこに××ちゃんはいる。俺の目の前にいる。よし、イメージ完了。

「俺、君が好きなんだよ」

いつか言えたらなあ。



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