「コーラ…米…アイス…」と呟いている芹沢さんという人とわたしは並んで歩いていた。随分身長が高い人だな、お父さんっぽい。結婚してるのかな、と思ったけれど左手の薬指に指輪は見当たらなかった。「あの」と声を掛けると「はいぃ!」とわたしが横に居た事に今気が付いた様に声を上げた。この人、ちょっと変わってるかも知れない。「すいません、付いて来て頂いて」と頭を軽く下げると、「いえ!仕事なんで!」と手をぶんぶん振った。変わっているけど、確かに真面目な人っぽい。





霊幻さんに言われるがまま、千円札を握らされた俺は初めて会う女の人と一緒にスーパーへ来た。手汗で千円札が湿っている。財布に入れるのを忘れていた。

「あ、ここ、このスーパーです」
「はい!えっと…米…」
「あ、お米は重いので最後にしましょう」
「はい!じゃあ…アイス…」
「アイスも溶けちゃうので、最後にしましょう」

凄い…買い物ですら工夫をこらして順番を決めるなんて…自分の発言を恥じた。ずっと家から出てなかったから、買い物もロクにした事ないしスーパーに来るのだって小学生の時以来だ。まして女の人と並んで歩くなんて、母ちゃんとしかした事がない。××さんと言うらしい女の人は、何がどこにあるのか把握しているらしく俺がずっとブツブツ呟いていたお茶っ葉やコーラも迷う事なくすんなりと見付けてカゴに放り込んだ。俺はと言うと、スーパーの広さに驚いていた。何だこれ、すげぇ広い…2階もある…。一人で来たら、目移りの時間も含めて小一時間はかかっていただろうなと思う。子供の頃母ちゃんと来た時はお菓子コーナーしか見ていなかったけど、この歳になって見ていると色んな物が置いてあった事に気付く。面白い。今度母ちゃんが買い物行く時に、荷物持ちとして一緒に付いて行ってみよう。

「芹沢さん、お米…5キロの買っても大丈夫ですか?」
「あ、全然大丈夫です。何ならもっと重くても」
「いや、ありがたいですけどそれは流石に申し訳ないです…」
「じゃあ折角なんで15キロにしましょう」
「え!?」

「いやいや」とか「いやいやいや、流石に」とかダチョウ倶楽部みたいなやり取りを繰り返した挙げ句、結局レジに並んで会計を済ませた。××さんは「ごめんなさい、本当に助かります」と言ってさっき買ったパピコを半分にして「食べて帰りませんか」と言って俺に渡してくれた。買い食いなんて、最後にしたのはいつだか思い出せない。「ありがとうございます」と言って受け取った。米は邪魔だったので肩に担ぐ事にした。××さんには「土木の人みたいですね」と言われた。

「パピコってカルピス味もあるんですね」
「たまに限定で出てるんですよ、お礼がこんなのですみません」
「いえ、俺、誰かと何かを分けて食べるってした事なくて。楽しいですね」
「え!?いいなあ、パピコとか雪見大福とかピノとか一人で食べられたんだ…もしかしてお坊ちゃんですか?」
「え、いや…」


友達いなかったんですか?的な言葉を想像していたけれど、お坊ちゃんと来るとは思わなかった。この人の中では、分けられるラインナップのアイスを一人で食べられたらお坊ちゃんなのか…。

「じゃあ今度、事務所に小分けのお菓子いっぱい持って来るんでお菓子パーティーしましょうよ。モブくんもいる時に」
「パーティー…た…楽しそうですね…!」
「ハッピーターン死ぬ程食べたいなぁ」
「めっちゃ分かります」
「ハッピーターンだけのお菓子パーティーにします?」
「それもいいですね!」

事務所に戻ってから霊幻さんにハッピーターンオンリーパーティーの提案をしたら「あの魔法の粉はな、一日分の摂取量が決まってんだよ。だからパイの実とかも持って来い。な?」と言われたので結局みんなの好きなお菓子を持ち寄る事にした。心なしかハッピーターンの比率が多かった。



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