人の好みというものは例えば食べ物だったら酸っぱい物が好きだったり辛いものが好きだったり甘いものが好きだったり多種多様だ。それは動物だって然りだし、もっと言うと赤が好きかとか青が好きかとか、花の香りが好きとか果実の香りが好きとかはたまた汗の匂いが好きとか、知能が発達してくるとそういうアブノーマルな趣向を持つ事もある。そういえばいつだか何かの情報で見たけれど、舌には甘みを感じる部分と苦味を感じる部分としょっぱさを感じる部分と、‥‥あとは忘れたけど何か部位毎に感じる味が違うらしい。人間って不思議だなとつくづく思う。


「○○さん、一緒に帰ろう」


人間は生まれ持ってアブノーマルな人と、社会に揉まれる内にアブノーマルを開花させてしまう人と2パターンあると思う。前者の場合、もう神様がそういうふうにその人を作ったんだから仕方ない、一生その性癖と上手く付き合っていくしかない。後者は可哀想だ。周りの環境が悪かったとか親が悪かったとか、外的要因の可能性も否めないからだ。自己責任の場合もあるけど。花沢くんは後者のアブノーマル開花説の可能性がある。


「人違いでは‥‥」
「え?キミ、○○さんじゃないの?」
「‥‥○○です」
「じゃあ間違えてないよ。帰り道、途中まで同じ方向でしょ?一緒に帰ろうよ」
「え、なんで、」

見苦しくも狼狽えるわたしをじっと見つめる花沢くんの顔は一言で言えばまさに容姿端麗だった。大きな瞳が夕陽を反射してキラキラしている、気がする。分かんない、顔が良いからとりあえずキラキラして見える。才色兼備っていうのは、この人のためにあるんだろうなと思う。そんな花沢くんが、アブノーマル説。わたしみたいに大した取り柄もない勉強もスポーツも顔も中の下、もしくは下の上といったところの女に一緒に帰ろうだなんて。世も末だ。

「‥‥‥‥実は僕、超能力者なんだ」

本当に世も末だった。

「幽霊とかも見えるんだけどね、実はキミの肩にずっと悪霊が憑いてるんだよ。今日、タイミングを見てコッソリ除霊しておこうと思ったんだけど、なかなか近くに行く機会がなくってさ。だから、一緒に帰ればその途中で除霊ができるかなって。あ、もちろん○○さんと一緒に帰ってみたいっていうのもあるよ。同じクラスなのに、ほとんど話した事なかったからさ。喋ってみたくて」

花沢くんは大真面目な顔で一通り喋りきると、「じゃあ帰ろうか」と言って勝手にわたしの鞄を持って校門の方へ向かって行ってしまった。世紀末だ。わたしの知らない所で、花沢くんの世界にどんな革命があったんだろう。思っていたアブノーマルとは違っていたけれど、これはこれでヤバイ。とりあえずわたしは花沢くんを追い掛けた。危ない宗教とかにハマってる様だったら、人として止めてあげなきゃ。‥‥‥‥あれ、そういえばずっと続いてた頭痛治ってる‥‥。





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