「新隆くーん!お酒飲も!!」という威勢の良い声と共にその女はやって来た。ガサガサと大きな袋を抱えている。「あ、モブ」と霊幻に呼びかけられた茂雄は、その女が持っているパンパンになったビニール袋を「持ちますよ」と率先して預かりに行ったが、「うっ‥‥」という声と共にしばらく硬直した。相当重いらしい。霊幻がパソコンから目を離して口を開く。


「よー、なにお前、どうしたの?」
「久しぶり!金曜日だからさ、来ちゃった」
「いや、金曜日ってだけでわざわざこんな酒買ってこないだろ」
「‥‥‥‥」
「なんかあった?」


どうやらこの女は霊幻の知り合いらしい。茂雄がキョロキョロと交互に会話をする2人を見つめている。すると女の目に、見る見る涙が溜まって行った。


「‥‥うっ‥‥うう‥‥」
「!!!し、師匠‥‥この女の人‥‥泣いてますよ‥‥」
「当ててやろうか、別れたんだろ」
「!!違うし!‥‥振ってやったんだし‥‥う‥‥」
「はいはい。よーし、そしたら今日は失恋パーティーな!モブ、お前も付き合え!」
「えっ‥‥僕、家でお母さんがご飯作ってくれてるんですけど‥‥」
「だぁーいじょーぶだって!俺が電話しといてやる」
「いや‥‥ていうかもう帰りた」


言いかけたところで、その女が茂雄の方を見て本格的に泣き出しそうになった。次の瞬間、茂雄は「お付き合いします」と口に出していた。見ているだけで非常に面倒くさそうだったのでかかわり合いになりたくなかった俺様は止めもしなかった。
それが間違いだった。


「うおぇえぇ‥‥」
「おい霊幻、いつまで吐いてんだよ!つーかなんで俺様が止めたところで止めとかねーんだよ馬鹿!」
「死ぬ‥‥」
「くそ‥‥おい、茂雄!起きろ!このままじゃそこらじゅうゲロまみれになるぞ!」
「‥‥‥‥うるさい‥‥」
「大体、その女どうすんだよ!飲むだけ飲んで寝やがって‥‥」


事務所は地獄絵図だった。霊幻はずっとビニール袋を抱えながらトイレと部屋を行き来しているし、茂雄はコーヒー牛乳と間違えて口を付けた酒で死んだように眠っている。起こそうとしたものの、寝ぼけた茂雄にうるさいと一蹴されて床に叩きつけられた。霊幻の知り合いの女は寝てる。ふざけんな。


「おい茂雄‥‥お前家帰んなくていいのか?遅くなっても帰るって話だったんだろ、明日の朝お前が部屋にいなかったら大騒ぎになるぞ」
「‥‥‥‥帰る」
「じゃあ起きろよ」
「‥‥エクボ‥‥任せる‥‥」
「は?」
「僕に乗り移って‥‥ついでに師匠のお友達も‥‥送ってあげて‥‥師匠は放っておいていいから‥‥女の人は‥‥ちゃんと送らないと‥‥」
「ちょ、おい!」
「頭痛い‥‥」


その言葉を最後に、茂雄は本格的に寝た。霊幻はトイレから出て来なくなった。残された俺様は考えた。なにも見なかった事にしてどこかへ逃げるか、茂雄に言われた通りにするか。考える前に寝たかと思われていた茂雄の口から「起きた時僕がゲロまみれの事務所にいたらエクボに全部掃除してもらうから‥‥」と聞こえた。ゲロ掃除とこいつらの送迎どっちか‥‥?送迎の方がマシだ!!!俺様は急いで茂雄の身体へ向かった。




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