近所のコンビニへ行った帰り道で芹沢が女子とキスをしていた。流石にこの時は生まれてこの方視力2.0のラインから落ちた事がない我が目を疑った。しかし俺は見た。家政婦は見たみたいな言い方になるのはこの際仕方ないとして、とんでもないものを見た。もしかしたら超能力で幻を見せられているのかもしれないと思ったが、芹沢と女子の接吻シーンの幻を見せ付けて来そうな超能力者の知り合いは居なかった。なぜか心臓がバクバクしている、一度深呼吸をしよう。鼻から吸って口から吐く、あれ、逆だったっけ。ていうかお前、いま勤務時間中。缶コーヒーも肉まんも、お前の分も買ってきてやったんだけど俺。上司をパシらせてお前、女とキスって。


「おはようございます」から「お疲れ様です」まで芹沢はいつもの芹沢だった。彼女ができたとか脱童貞したとかそういった浮かれたような様子は微塵も感じさせず、客が来ればぎこちない様子でお茶を出して、空いた時間で夜間学校の予習をして、モブが来たら3人でお菓子やらたこ焼きやらを食って夕方には事務所を出て行く。もしかしたら俺の見間違いだったのだろうか。いや、それはない。‥‥そもそも俺は何でこんなにそわそわしているんだ。元引きこもりだった部下にめでたく彼女ができた(かも知れない)んだから、喜ばしい事じゃないか。そうだ、そうだよ。

「でもあれ、俺の友達なんだよな。どう思う?」

相談相手は部屋の天井のシミしかいなかった。顔に見えるシミなら、返事くらい出来るようになれよ。



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