夜の繁華街は怖い、とか俺みたいなデカイ男が言ってたらちょっとキモイと思うけど怖いものは怖い。押しに弱そうに見えるのかスケベそうに見えるのか分からないけれどキャッチには百発百中声を掛けられるし、ラブホテルの出入口前で今しがたコトを致してきたであろう人達と出くわしてしまった時には家に着くまで非常に気まずい気持ちになる。なるべく通りたくない道なんだけど、家までの近道だから疲れている時は意を決してこの道を通る。最近はキャバクラのキャッチも上手くスルーできるようになって来た。処世術が身に付いてきたってやつなんですかね、と霊幻さんに言ってみたら「それはちょっと違う」みたいに言われた。やっぱ社会は厳しいな。
とか考えていたらお城みたいなラブホテルのひっそりとした出入口から女の子とおじさんが出てきた。俺の前を歩いている後ろ姿を観察しながら、カップルっていうよりお金のやり取りがあるタイプのやつだろうなぁ‥‥ていうか俺ももうおじさんか‥‥とか色々ぼんやり考えていた。大通りに出た所で、女の子とおじさんが何か一言二言会話を交わしてそれぞれ別の方向に向かって歩き出した。帰り道が違うんだな。女の子の家は俺の家と同じ方向だったらしく、俺はしばらくその女の子の後ろを歩き続けるハメになった。‥‥通報とかされたらどうしよう‥‥。なるべくひつそり歩いていると、それが逆効果だったらしくちらりと振り向いた女の子が小走りになった。これはマズイ。明日の朝起きたら町内回覧板に俺みたいな背格好のイラスト付きで不審者情報が回ってくるかも知れない。社会復帰してちゃんと働いて、勉強もしていい方向に人生が向いている所だというのに‥‥俺が‥‥痴漢‥‥。明日の朝警察が玄関の前にいる図が思い浮かぶ。頭が真っ白になった。

「ちょ、ちょっと待って!ちが、違うんだよ」

とにかく何とかしなくてはいけないと思った俺は、走り出してその女の子の手首を掴んだ。冷静になってみれば不審に拍車をかける行動だった訳だが、その時の俺は冷静にはなれなかった。手を掴まれた女の子は勢いよく振り返った。泣きそうだった。いや、それよりもこの子、俺知ってるけど。

「××ちゃん、なにしてるの‥‥」

お隣さんの女の子が援助交際をしていたという驚愕の事実を知ってしまった俺は何を言ったらいいのか分からず、ただただ魚みたいに口をパクパクさせてた。あ、今日の夕飯秋刀魚って言ってたな‥‥秋だな‥‥。


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