俺の友達‥‥と言えるかどうかは分からないが、まあ知人の女は非常に股が緩く通称ヤリマンだ。影分身でも使えるのかってくらい上手い具合にローテーションを回して多数の男と出掛けたりホテル行ったりを繰り返しているモンだから、俺は会う度に「お前いつか刺されるぞ」と忠告していた。忠告っていうかもう、そいつに会った時の挨拶みたいな物だった。派手でもなく地味でもなくわりとフツーな感じの女だっていうのに、ほんと人間見た目じゃ分かんねーな。今日、そいつから「ちょっと話せない?」というような連絡が来た時も、顔を合わせたら「よく生きてたな」と言ってやるつもりだった。それなのに、待ち合わせ場所の喫茶店には顔半分に青アザを作ったそいつがやって来たもんだから「よく生きてたな」と言うつもりだった口が「ヤベーよお前、一足早いハロウィンかよ」と動いていた。心配の気持ちよりも、ついにやられたかという気持ちが遥かにデカかった。自分のこういう心情から判断すると、やっぱりこいつは友達じゃなくて知人だ。真面目に受け取ったのか「特殊メイクじゃないから」とのたまうそいつに「分かってっから。なに、どうしたの?」と一先ず経緯を聞いてみる。まあ男だろうな、もしくは手ぇ出した男の女にやられたか。考えれば考える程もう現実感が無さ過ぎてギャグにしか思えない、やばい笑いそう。そいつが喋り出す前に「まあ男絡みだろうけどさ、お前それすげぇ面白いよ‥‥体張ったギャグかと思ったわ」と口元を抑えながら笑いを堪えていた。しかし次の瞬間そいつが「新隆くんのとこの新人さん、結構過激派だね」と言った瞬間俺の顔は笑い顔のまま凍りついた。

「も、モブは、女には、手を挙げない」
「モブくんな訳ないじゃん、あたし捕まるし」
「おま、それより、うちの従業員に手ぇ出してたのか」
「あたしが手出したっていうか、まあ合意の上っていうか、芹沢さんもう成人してるんだし何ら問題ないじゃん」
「やめろ!芹沢の名前をお前の口から聞きたくない!生々しい‥‥!!」
「今まで散々あたしの生々しい話聞いて爆笑してたのに何を今更」
「俺の近い奴とやらないでくれよ〜‥‥ほんとアホかよお前‥‥」
「まあ済んだことは仕方ないとして」


そいつが顔半分を覆っていた白いガーゼをぺりぺり剥がすと、さらにホラーメイクみたいな痣が出てきた。「痛かった」と言う。いや、まあ痛いだろうな。「‥‥俺に金払えってか?」と聞いてみると、「いやお金とかは別にいいんだけど、自業自得だし」と言った。こいつは何だかんだ割り切ってる所がほんと酷だなと思う。大抵男の方は割り切れないという事が多い。芹沢もそれなんじゃないかという気がする。

「俺みたいなのと一緒にいて楽しいかな、って言われたからさ、言っちゃったんだよね。芹沢さんみたいな人とも、色々したことあるから大丈夫だよって。フォローのつもりだったんだけどさ、駄目だったね。ガツンと、やられちゃいました。はは」
「‥‥‥‥‥‥」
「彼なりのアイデンティティが崩壊しちゃったのかな。反省する。これから股をかけるにあたって、もっと言葉に気を付ける」

股かけるのやめろよ。

「まあ、芹沢はお前に相当入れ込んでたんだろうな。俺がもっと早い段階で気付いてやるべきだった」
「ちょっと人を美人局みたいに言わないでよ、貢いでもらったりとかしてないから」
「部下のメンタルケアも上司の仕事だ」
「新隆くん、そんなんだったっけ」
「俺も大人になったんだよば〜〜〜か!」
「言葉に大人味がない‥‥」

気付いたら注文したコーヒーはほとんど冷めていた。はぁ〜この女またクソめんどくせぇこと仕出かしやがって‥‥いつか死ね‥‥そんな事を思いながらスーツの胸ポケットから煙草を取り出して火を付けた。クソ‥‥また1ヶ月も経たない内に禁煙終わった‥‥。


「ところでさぁ、芹沢くんなかなか良かったよ。おっきいし、体力あるし」
「お前それ、下ネタだったら殺す」
「いいじゃん、面白いし。それかこの顔の痣訴えてもいいけど」

‥‥ほんとこの女死ねよ


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