身体がゆらゆらと揺れていて、でも地に足が付いていない不思議な感覚で目が覚めた。一番はじめに視界に入ったのは、まだ成長途中であろう細身の肩と、少年らしい背中だった。暗くて街灯の少ない道をスタスタと歩いている。その度にわたしの身体はゆらゆらと揺れた。それが心地よくて、目の前の肩に頭を預けて再び目を閉じる。頭をぐりぐり肩に押し付けてみると、「起きたんですか」とまだそんなに低くない男の子の声が聞こえた。「ちょっと起きたけど、まだ眠い」と返す。


「家まで送るんで」
「場所分かるの?」
「財布の身分証見させてもらいました」
「ねえ、茂雄くんだっけ。中学生だよね。わたし重くないの?」
「はあ、まあ、普通です」
「普通って?何と比べて普通なの?」
「めんどくせ‥‥」
「え?なんて?」
「何でもないです」

茂雄くんは成人女性1人をおんぶしている中学生とは思えない素振りでスタスタと早歩きをした。お酒で火照った顔に夜風が気持ちいい。


「そういえば、新隆くんは?」
「飲み過ぎてたみたいなんで、事務所で寝て行くみたいです」
「へぇ‥‥相変わらずお酒弱いんだなあ」
「知ってたら止めてやればよかったのに」
「だって、わたしが飲みたかったから人を止める余裕なんてなくて」
「‥‥‥‥‥‥」


それっきり黙りこくってしまった茂雄くんの背中を見つめていると、いたずら心というか、なにか構ってやりたい気持ちがうずうずと湧いてきた。酒を飲んで衝動的にそういう気持ちになる事はよくある。浮気とか不倫も、こういう通り魔的な気持ちでやらかしちゃうんじゃないかなあと勝手に思ってる。やっちゃいけない気がするけど、やったら間違いなく楽しいであろう事。


「ねえ、茂雄くんさあ、彼女いる?」
「いませんけど」
「じゃあさ、エッチしたことないでしょ」
「‥‥‥‥」
「ねえ、そうでしょ」
「何が言いたいんですか」


返事をする変わりに、茂雄くんの身体に手を回した。Tシャツの中に手を突っ込んで。お腹の下の辺りをまさぐる。茂雄くんはビクッとして、歩くのをやめた。


「エッチはダメだけど‥‥ね、お姉さんがさ、抜いてあげよっか」
「‥‥飲みすぎですよ、やめて下さい」
「ずいぶん大人びた反応するんだね。もっと真っ赤になって、慌てふためくのかと思った」


喋りながら、お腹から下へ下へ手を伸ばして行く。もう少しで中学生の大事なところへ手が届く、と思ったところで、いきなり茂雄くんは真っ暗な裏路地へ向かった。ははぁん、さすがに開けた場所では恥ずかしいんだなと思っていると、膝の裏に回っていた茂雄くんの手がパッと離れてわたしの身体はお尻から思いっきり地面へ落ちた。尾てい骨が折れたかと思った。涙を堪えながら「ちょっと」と言いかけたが、その瞬間茂雄くんの足がわたしの背後のコンクリート壁にドカンとぶつかって声を失った。

「おいおい、男子中学生誘惑って、お前ショタコンから何かか?それともよっぽど欲求不満?」
「へ、あ、」
「あ〜あ、変なトコ触ろうとすっから、コイツの身体も反応しちゃってるよ。なあ、どうしてくれんの?」
「え‥‥こいつ‥‥?え?」
「そういやさっき、抜いてやろうかとか言ってたよなぁ」
「え、だ、だれ?」


見た目は茂雄くんだけど、この子は茂雄くんじゃないと思った。違う、新隆くんの話に聞いていたのはこんな感じの子じゃなかった。誰だお前。


「あんまやり過ぎると茂雄に何されっか分かんねーからな、特別に優しくしてやるよ」
「え、え、あ、」
「大丈夫だって、終わった後ちゃんと送ってやるから」


辺りは真っ暗でろくに何も見えないはずなのに、ニヤリと笑った茂雄くん(?)の顔だけやけに鮮明に見えた。夏の夜の事だった。次の日、恐る恐るまたあの事務所に行ってみたけれど、そこには漫画を読んでいる純朴な男子中学生とソファーで寝ている新隆くんがいるだけだった。



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