また頬にデキモノができてる。前にコンビニで見かけた時セブンスターを買ってたのを見てから、実はこっそり煙草を吸っているのも知ってる。目の下のクマは年齢的なものと、夜遅くまで教科書読んでたんだろうなぁという事情が推測できる。あと、ちょっと白髪あるの気付いてるのかな。わたし、結構芹沢さんの事見てるんですよ。自慢じゃないけど。
自慢にもならないけど。


クリスマスも近いという事でプレゼントを買ってみました、事務所の方々に。昨年はお世話になりましたという意味も込めてだし、別に変な意味じゃないですよ、全員分ありますよ〜、みたいなツラを下げて事務所に赴いた。霊幻さんにはハンカチ、モブくんには手袋、そして芹沢さんにはちょっと良いボールペンを渡した。

「今年もお世話になりましてメリークリスマス」
「フライングしてるし混ぜるなよ」

クッキーを焼きました。簡単なものだけれど、プレゼントのおまけにしようと思って。ていうかオマケなら、手作りのお菓子でも渡しやすいかなと思っての事で。そのクッキーが入った袋はというと、今わたしの鞄の中でじっと息を潜めている。わたしはと言うと、芹沢さんにプレゼントをするというプレッシャーと緊張感でいっぱいいっぱいだった。芹沢さんはボールペンの箱を開けると「すげぇ‥‥!」と言ってしげしげペンを眺めていた。霊幻さんが「いいじゃん、スーツの胸ポケット入れとけよ」と言ったので、芹沢さんのスーツの胸ポケットにはわたしが散々悩んで購入したボールペンが鎮座間していた。それだけでもう充分幸せだった。このクッキーは家に帰ってわたしが全部食おう。


「あ、実は俺もプレゼント用意してて‥‥皆さんになんですけど‥‥」
「えっ、マジ?芹沢が選んだの?」
「はい、近所のケーキ屋さんのクッキーなんですけど。俺すげぇ好きで、小さい頃よく母ちゃんに買って貰ってたんですよ」
「師匠、お茶いれますか」
「そうだな、みんなでティータイムするか」

××、座れよ、と促されてソファに腰掛けた。まさかのクッキー被りだった‥‥出さなくて良かった‥‥。何となくカバンに手を入れてクッキーの袋を掴んだまま座っていると、隣に芹沢さんが腰掛けた。びっくりして全身の毛穴から冷や汗が吹き出た気がした。

「××ちゃん、俺こんな万年筆みたいなボールペン初めて見たよ。ほんとありがとう」
「い、いえ、全然」
「‥‥あれ、××ちゃんもクッキー持ってきてたの?」
「!?」
「ほら、その鞄の中のやつ」
「えっ、××さんクッキー作ったんですか?すごい‥‥」
「マジ!?お前早く言えよ〜、よし一緒に食おう」


あれよあれよという間にわたしが作って握りつぶしそうになっていたクッキーも、テーブルの上に並んだ。芹沢さん、女子の鞄を覗き込んで中身を公言するなんて、なかなかの強者だ。下手したら嫌われちゃいますよ。まあ、わたしはそんな事で芹沢さんを嫌いになんてなりませんけど。


「芹沢〜、これ六花亭のバターサンドじゃん。クッキーとはちょっと違うだろ」
「えっ、有名なんですか?」
「めっちゃ有名だよ」
「これ、僕も律も好きなやつです」
「クッキーってのは××が作ったみたいなヤツな。この紅茶入ってるのうまいな」
「うまいですね」
「‥‥お前さ、何かもっと感想ないの?」
「え?」
「どこがどう美味いかとかさ、もっとあるだろ。作ったやつ目の前に居るんだぞ」
「えっと‥‥サクサクで‥‥バターの味がする所がいいと思います」
「あのな芹沢、もうちょっと色々勉強しような」
「?はい」


その言葉だけで幸せだから、芹沢さんのボキャブラリーなんてどうでも良い。


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