俺は今悩んでいた。人生で、と言うか外に出る様になってから1番悩んでいると行っても過言ではないかも知れない。お店の中は冷房が効いている筈なのに、俺の額や身体からは汗がとめどなく溢れていた。まだ着慣れないスーツのジャケットの袖を捲る。‥‥そういえば霊幻さん、小まめにクリーニング出せよって言ってたなぁ‥‥。全然関係無いことを考えていると、ショーケース越しの女の子に「お決まりですか?」と微笑まれて心臓が止まりそうになった。多分このやり取り、3回くらい繰り返している。もうそろそろ時間もやばい‥‥。俺は緊張と焦りでカラカラになっていた喉から声を出すために咳払いをして口を開いた。


「あ、ああ、あの、こ、この棚のやつ全部下さい」


給料出たばっかりだし、大丈夫だ。余ったら母ちゃんにあげよう。





「クグロフの発音が分からなくて、その棚にあるケーキ全部買っちゃったんですか?」
「う、うん‥‥俺、女の子が好きなそうなものとか分かんないし‥‥ショートケーキとかだと、もし落としたら崩れちゃうし‥‥」
「(落とす事前提で考えるんだ‥‥)」
「それにしても凄いよなあ、面接なんて。俺、想像しただけで膝が震えて吐きそうになるよ」
「そんな芹沢さんを想像してたら逆に落ち着けました」
「えっ、そう?俺みたいなのが役に立てて良かったなあ。あっ、ケーキ1ダースあるから好きなの選んでよ」
「1ダースって知ってるんですね」
「うん、最近夜間学校で習ったんだ」
「(多い‥‥)せっかくだから、事務所寄ってみんなで食べましょうよ」
「あ、そうか。じゃあみんなで面接終了パーティーしよう」
「内定祝いじゃなくて面接終了パーティー‥‥?」
「影山くんとか、ケーキ何が好きなのかなあ。好きなのあるかな」
「これだけあれば好きなの一つは入ってるんじゃないかな」
「あ、確かに。たくさん買っておいて良かった!」
「芹沢さん、たまにちょっとズレてますよね」
「引きこもりだったからさ、ははは‥‥」
「(天性のものもありそうだけど)」



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