「こんにちは霊幻くんいますか」と言って霊とか相談所と書かれた胡散臭いビルの一室にある扉を開くと、これまた胡散臭いスマイルを浮かべた霊幻くんの姿があった。そしてその胡散臭い霊幻くんは、わたしを見るなりあからさまにガッカリした顔をしてパソコンの画面に視線を戻した。漫画を読んでいたモブくんは顔を上げて「こんにちは」と挨拶をしてくれた。「なんか日焼けしたね」と言うと微妙に嬉しそうな顔をしていた。

「霊幻くん、これからスーパー行くんだけど」
「おお、行って来い」
「お米切らしちゃって」
「そうか」
「買わなきゃいけないんだけど、重いじゃん」
「そうだな」
「手伝ってよ」
「残念だがこれから予約の客が来るんだよ、手伝ってやれなくて心苦しいが…」
「あれ、師匠。今日は予約ないですよね」
「………」
「………」
「霊幻くん」
「あの、僕行きましょうか」
「モブくんに10キロの米を20分も持たせられないよ」
「そうだな。モブ、やめとけ」
「えっ…」
「そうだ、芹沢行ってやれよ。今日学校ないだろ」

霊幻くんが事務所の奥に向かって声を掛けた方向を見ると、見知らぬ男の人が気配を殺すように柱の影でじっとしていた。お…おばけ…?口を半開きにしてじっと見ていると、その人はおずおずと柱の影から出て来て「お…俺ですか…?」と非常に不安そうに霊幻くんに聞いた。額からは滝のように汗が流れている。体格は大きいけれど小鳥のハートを持っていそうなその人に霊幻くんは容赦なく「そうだ、行け。女を助けてやるのも男の仕事だろ」と突っぱねた。じゃあお前が行けよと思った。

「そうだ、ついでに仲良くなって来いよ。友達増やして来い」
「え!?」
「こいつウチの新入り。重い荷物は持てるから連れて行っていいぞ。はい解決、良かったな。あ、芹沢、ついでにアイスとお茶葉とコーラ買って来て。これ金な。日が暮れるまでには帰って来いよ」

霊幻くんに千円札を握らされた芹沢と言うらしい男の人は、「俺が…買い物を…アイス…お茶葉…コーラ…米…」とブツブツ呟いてぎくしゃくと一人で外に出て行ってしまった。事務所を出る前に霊幻くんに「あの人大丈夫?」と聞いたら「真面目なヤツだよ」と返って来たけれど、大丈夫かどうなのかは分からないままだった。


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