久しぶりに会えた、と喜んでいたのは僕ばかりではなく僕の兄もまた然りだった。小学校低学年の頃は××お姉ちゃん。高学年では××お姉さん。中学生になった今では××さん。つもり募る思いに反して、口から出る言葉はどんどん××さんとの距離を広げている気がする。僕も兄さんみたいに素直になれたら…。「ねえねえ茂雄くん、久しぶりにあれ見せてよ」という××さんの声がして顔を上げると、オレンジジュースと思わしき橙色の液体がハート型になって浮いていた。

「すごーい!ねえ、女の子にこれやってあげたらモテるんじゃない?」
「××お姉ちゃん、人は超能力があってもモテないんだよ」
「そうなの?ずいぶんシビアな世界で生きてるんだね」
「律は勉強もできるしスポーツもできるし、超能力なんてなくてもモテるんだよ」
「そうだね、律くん格好いいもんね。昔から女の子からお手紙とか色々貰ってたもんね」
「××お姉ちゃん、今、遠回しに僕はカッコわるいって言ったね」
「えっ、いや、」
「なに謙遜してるの。兄さんだって僕に無いものを持ってるじゃないか、羨ましいよ」
「律くんだってわたしの弟に欲しいくらいだよ」
「それは××お姉ちゃんでも絶対駄目」
「厳しいね」


この数分の会話だけで胃の下の方がずーんと重くなって息苦しさを感じた。僕の人生、もう駄目かも知れないとさえ思う。弟。弟ってなんだよ。僕は××さんに、そんな風に見て欲しいんじゃない。早く××さんに追いつける様に勉強もスポーツも努力した。でも時間は、年齢は努力してもどうにもならないと言う事を、努力すればする程ひしひしと感じる。挙げ句の果てに、久しぶりに会えたと思ったら第一声「茂雄くん、久しぶりに超能力見せてよ!」って。何だよ、何なんだよ。超能力も使えない、ただ少し勉強とスポーツができて少し同年代の女子にモテるような中学生の僕なんかには興味もないって言うのか。落ち込むと言うか、それを通り越して腹立たしくなって来た。兄さんは屈託ない顔で「××お姉ちゃん」と小学生の頃から変わりなく××さんと接している。僕は××さんの事をこんなに考えて努力して努力して、それなのに、超能力が使えるっていうだけで××さんは兄さんばかり見ている。世の中不公平過ぎないか?なんで兄さんばっかり、…どうして…。


「…××お姉ちゃんは、超能力が使えるヤツが、そんなに良いんだ」


????誰の声だ?と思って辺りを見回したら、兄さんも××さんも驚いたような顔で僕を見ている。反射的に自分の口を抑えた。今喋ったのは僕だったらしい。嘘だろ。だってそんな、あんな幼稚でバカみたいなこと、××さんの前で……。兄さんは困った様に口をパクパクさせていたが、思いついたように口を開いた。


「あ、り、律…ごめんね。僕が××お姉ちゃんとずっと喋っちゃってたから…律も喋りたかったよね。だって律、昔から××お姉ちゃんの事、大好きだったもんね」


自分の顔から血の気が引いた直後、頬が熱くなるのを感じた。××さんが呆然としている。僕はたまらず部屋を飛び出した。兄さんの馬鹿野郎!!!!!!!!!!その後4時間ばかり土手で川を見つめてから家に帰ったら、兄さんと××さんがマリカーとスマブラを用意して僕を待ち構えていた。
一緒に遊びたいとか、そういう意味じゃない!!!!!!


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