「霊幻さん、聞いてください」と言う芹沢は、青ざめた顔で俺の前に立っていた。あれ‥‥最近もこんな事あったような‥‥デジャヴを感じつつも「まあ座れよ」と言ってソファーに腰掛けた。その顔で突っ立ったままでいられると、まるで俺が説教でもしてるみたいだ。‥‥まさかこいつ、なんかやらかしたのか?「何かあるなら包み隠さず言ってみろ。あ、会社用の携帯壊したか?」と聞いてみるとうつむき加減の首を横に振るばかりだった。1分近くの沈黙があっただろうか、芹沢がポツリと「俺は‥‥一人の未来ある若者の‥‥それも女の子の人生を‥‥ダメにしてしまうかも知れません‥‥」と呟いた。思わず「は?!」と大きな声が出る。何をやらかしたコイツ、痴漢か?盗撮か?‥‥まさか、未成年を妊娠させたとか‥‥?!‥‥落ち着け俺、芹沢はそんなタイプじゃないだろ‥‥‥‥大丈夫、大丈夫だ。うちの事務所から前科持ちを出してたまるか。「とりあえず、何があったんだよ」と聞くと「‥‥この前の‥‥女子大生の子、覚えてますか‥‥」と言った。覚えているもなにも、一週間前くらいにとんでもない事を俺に相談しに来たんだからな。鮮明に記憶に残ってるよ。あの後すぐお前の携帯買いに行ったよ。「ああ」と言うと「あの子‥‥俺が‥‥好きって言うんですよ‥‥」と今まで見た中たどの表情よりも暗い顔をして女子大生に告白された事実を告げた。お前それ、言葉と表情が合ってねぇよ‥‥。

「良かったじゃん」
「いや、だってあの子、二十歳前半ですよ‥‥?俺みたいな元引きこもりのオッサンが好きなんて‥‥絶対何か悪霊に取り憑かれてると思ったんですけど、霊の気配はしないし‥‥俺もう‥‥どうしたらいいのか分からなくて‥‥」
「いやそれ、普通にその子がお前のこと好きなだけだろ」
「霊幻さん‥‥いくら俺が世間知らずだからって、そんな嘘は流石に通用しませんよ」
「いや、今の話でそれ以外考えられねぇし‥‥」


そう言うと芹沢はじっと下を向いていたが、しばらくすると肩を震わせた。えっ‥‥泣いてんの?何コイツ怖い‥‥。「どうしたんだよ」と肩に手を置いてみると「霊幻さん‥‥もしそれが本当だったとしたら‥‥あの子を説得して下さい」と真剣な眼差しで俺を見据えた。は?「は?」あ、声に出てた。

「あの子は若いから、きっと血迷っているんです。たまたま彼氏がいないタイミングで、たまたま家に悪霊が出て、それをたまたま俺に助けられて、それを恋と勘違いしているだけなんです!もっと他に将来性のある若者がキミの周りにはたくさんいるんだよという事を、霊幻さんの話術で伝えて欲しいんです!お願いします!!」


力強く手を握られて、深々と頭を下げられた‥‥年上に‥‥あれ、俺‥‥関係なくね‥‥?



ALICE+