「まー上がって上がってー」
「うおっ!? んだよこれ!」

私の部屋に彼氏の花宮真くんがやってきた。

中学から知り合いだったが、高校で離れて、大学で再会して、なんやかんやあり付き合うことに。
普段は真くんの家に行くことが多いけど月に一回、こうやって私の部屋に来てくれる。

「てめぇ、先月片付けたばっかだろうが!!」
「はぁ? 1週間で元通りに決まってんじゃーん」
「ほんっとあり得ねぇ!」

衣類のカーペットを先導して歩くと真くんは持参した使い捨てスリッパをはいてついてくる。

「おい、机の食器はいつ使ったやつだ」
「あーたしか、先月片付けてもらったときに久々に自炊するぞーって使ったやつだから……」
「1ヶ月近く放置してんのか!? キタネェ!」

私はベッドに座るが真くんは立ったまんま。
前に座りなよってすすめたら「んなところに座るくらいならヤマの膝に座る方がましだ」って言われた。
彼女のベッドより男の膝をとるとかどうよ?

「ッチ。まずは部屋の片付けからだ! 前に揃えてやった掃除セットはどこに置きやがった」
「そのへんに埋もれてると思う」
「郵便物くれぇ仕分けしやがれ!」

「まぁホコリかぶってるだけならましな方か」とため息つきながら発掘作業をする真くんはホントに彼氏の鏡である。

「ボサッとすんな。おら、捨てれるもんは全部捨てろ。燃えるゴミは明日だろ」
「はいはい。ポンポン捨てられるのは唯一の特技でーす」
「分かってんならゴミくらい毎週捨てやがれ」

あー広告チラシばっか、はい捨てー
カップ麺の残骸、捨てー
あれ? このパンいつ買ったっけ? まぁいいや、捨てー

「真くーんペットボトルは分別すんのー?」
「ったりめーだろバァカ」

いやはや、性格は悪いのにそういう規則には厳しいよね。
んで、真くんはなにをしてるかと言うと、お洗濯の準備。
といっても、外に出てるものは全部洗うらしく大型コインランドリーに持ってくために袋にまとめてる。

「んーワイヤー曲がったブラはどうしよ」
「捨てろ、金は貸してやるから」
「そこは買ってくれるもんじゃないのー?」
「んなことするわけねぇだろ、バァカ」

うん、捨てれるもんはこんなもんかな?
あと、キッチンの生ゴミ……
ゆーうつー

「真くーん、キッチンもやるのー?」
「……キッチンの掃除と風呂場とトイレの掃除、好きな方選べ」
「うぇー」
「せっかくの休みを他人の部屋掃除に潰されてる俺の方がうぇーだわ。殺すぞ」

さて、お部屋の掃除がんばるぞー!



部屋の掃除も一段落。
コインランドリーで洗えるもんを全部つっこんで回している間に買い出し。
真くん運転で部屋に戻ってきた。

「つかれたー!」
「飯つくっから拭き掃除。ドライシートで乾拭きしてからウェットシートな」
「まだだったー!」

ホコリがたつからとドアを閉められ、しょんぼりしながらもドライシートをかける。
せめて、ご飯作る真くんの姿を見ながらしたかった。

「ご飯できたー?」 
「まだ。服をたため」
「えー」

と、言いつつも服をたたむ。
今日のお夕飯は真くんの手にかかってるので素直に従っておかないと後が怖い。
せめて、真くんの姿が見たいと言えば、ドアを開ける許可が出た。

「カレーのいい匂いがするー」
「まだまだ煮込むぞ。肉が固い」

空気の入れ換えのために開いてた窓からは少し冷たい風が吹いている。
空も夕日に染まって、なんだか写真みたいだ。

「こういうのが幸せなんだろーね」
「はあ?」
「朝から彼氏に会えてー二人でキャッキャッ言いながら作業してー」
「言ってねぇけどな」
「真くんが私の部屋で、私のこと考えながら、私のための作業をしてるのが嬉しいんですよー。愛されてるな、私」
「うるせーよ」
「そうやって、丸一日真くんを感じられるなら、汚ない部屋で不便な生活するのも悪くないなって」

真くんを見れば、まだ鍋を見つめている。
流し目でこちらを見て彼お得意の意地悪な笑いかたで

「汚ねぇ女」



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