目の前に広がる光景に似つかわしくない、ゆったりとしたジャズの音楽が店内を流れていく。
優雅なティータイムを楽しむ客のすぐそばで、豚のようなポケモンが火の粉を吹き出し、猿のようなポケモンがそれをかわす。
軽いフットワークで豚ちゃんの攻撃をギリギリのところでひらりとかわしていく。わざと引きつけ、すんでの所でかわす、そうして豚ちゃんの体力消耗を狙っているんだろう。にっこりと笑った顔が憎たらしく見える。嫌な戦い方だ。
そして、豚のポケモンが疲労で一瞬の隙を見せた瞬間。
「ヒヤップ、”みずてっぽう"です」
「ヤップーー!!」
待ってましたと言わんばかりに、青い髪のジムリーダーが的確に指示を出す。
猿、ヒヤップと呼ばれたポケモンは口から弾丸のように水を吹き出した。顔面にモロに"みずてっぽう"をくらった豚のポケモンは地面に倒れ、目を回している。
携帯を操作して図鑑を開く。豚ちゃんはポカブというらしい。炎タイプ、効果抜群で戦闘不能。
チャレンジャーの手持ちによってジムリーダーが変わる、不利な状況でも勝利を掴め、的な感じなわけね。
研究所でポケモンを貰ったトレーナーにとっての最初の関門…ってまとめサイトに書いてたな。たしか研究所では草と炎と水のポケモンが貰えるんだっけ?オッサンにポケモン持とうよ!ってパンフレット押しつけられたときに見た気がする。
「勝者!ジムリーダー、コーン!」
「お疲れ様でしたヒヤップ」
「ヤプヤプ」
審判が声高々にそう告げると、ワッ!と店内から歓声が上がった。パチパチと拍手が起こる中、チャレンジャーとして戦っていた少女は目を回しているポカブをボールに戻し、対戦していた相手へ頭を下げる。
「ありがとうございました…」
「こちらこそ、良いバトルでした。もう少し、ポケモンの体力にも気をつけて戦えると、あなた達はもっと強くなれますよ。またのチャレンジ、お待ちしております」
「っ、はい!次は絶対勝ちます!」
少女の言葉にコーンは笑顔を返す。店内からは黄色い歓声もいくつか上がり、店内は拍手に包まれた。
「見世物小屋かよ…」
自分が今からあの場所に立つのかと思うと気分がさらに下がってくる。
『次って俺たちの番?どうしよ!キンチョーしてきた…』
カタカタ揺れるボールの中で少し硬い表情をしているルルを鼻で嗤った。勝てるバトルの何に緊張することがあるんだか。
「僕の言うこと聞いとけば良いんだよ」
『すっごい横暴なセリフなのに今は頼もしい…』
順番待ちと言うことで、バトルが終わるまで待たされていたわけだが、紅茶は出てくるしお菓子も出してくれた。
金を取られてはいけないので最初は断ったが、サービスだと言うことでありがたーく貰った。チョコチップのスコーンうまかったな。通販出来るみたいだし、家戻れたら通販しようか。いや、メアかイルちゃんに作って貰った方が美味いかも。
「さて、どうやるか」
紅茶を飲み干し、座っていて固まった体を伸ばす。さっきのバトルを見るに1番手はヨーテリー、切り札はあの猿。小さくてすばしっこいのが厄介かもなぁ。ま、問題ない。
「お待たせいたしました。こちらへ」
「はーい」
『ね、ねえ!ほんとに大丈夫かなこれ!?俺バトルとか初めて!』
『シウンに任せとけばいいだろ』
『いや俺シウンちゃんのことよく知らないし…』
『知れ』
『え!?無茶を!』
バトルコートに向かうまでの短い間でよくもまあ茶番を繰り広げられるもんだ。
ウエイトレスに案内され、バトルコートの真ん中に立つ。
ボールの中にいるルルを見ると、まだ緊張した面持ちでボールの中からキョロキョロと外の様子をうかがっている。
まるで舞台のようなコートの周りで、もう一戦あるのかと盛り上がる客達に嫌な気がした。
ウエイトレスの格好をした緑色頭の男がバトルコートに上がってくる。さっきの青いコーンとか言う奴じゃないのか。さっきバトルしてたし、ここはチャレンジャーのポケモンによってタイプを変えてくるジムって書いてたし。予想外の展開ってわけじゃない。まあ、バトルしてバッジとお金がもらえれば相手は誰でもいい。
「はい……それでは、くさタイプのポケモンがすきな、ぼく、デントが」
「待て待て待て!!」
「あ?」
バタバタと効果音がつきそうな勢いでコート上に上がってきた赤色頭のウエイトレスの男。デントと言った男を押しのけて、燃えるような赤色の頭をしたウエイトレスが僕の目の前に立つ。
周りの客に聞こえない程度に声のボリュームを下げ、赤色頭は僕を睨み付けてくる。
「さっきの言葉、聞き捨てならねぇ」
「何も言ってないけど」
「見世物小屋とか言ってただろ」
「さあ?」
すっとぼけよ。めんどくせぇ。
てか、あの歓声と拍手の中で僕の小言を聞き取ったのかこいつ。地獄耳ってこわ。
「とぼけやがって…。いいか、ここは食事もバトルも楽しめる、」
「あーそういうの面倒だからいいよ。早くバトルしてくんない?ジムリーダーさん。こんな人目のあるところに長時間立たされて、僕緊張で胸が破裂しちゃいそーう」
『えっ!そうなの!?シウンちゃんも俺と一緒なんだ…よかったぁ』
赤色頭の話を無視してバトルコートの端に向かう。こんなところで説教を聞いてやる程、僕の心は広くない。広いとか広くないとかそういう問題じゃないか、普通に嫌だし。すでに目立ちまくってるんだ、これ以上人の目にさらされるのは面倒だ。
あと、なんか違う勘違いが生まれてるけど、いいか。
「〜〜っ!もう!ほのおタイプで燃やしまくる。オレ、ポッドが相手をするぜ!」
「ポッド、横入りは良くないよ」
「わぁかってるよ!でも、アイツの相手はオレがする!デントは下がってろ!」
「……はぁ、わかったよ。でも、気をつけて」
「ん?」
『シウン?どうかしたか?』
「いや、なんか見られた気がして……」
『あの緑色か?』
「んーまぁ見るのは見るか……」
僕とあのポッドっていうジムリーダーがもめてる風だったし。
でも、あの敵意。嫌な感じだ。ブラックシティのチンピラとは違う。何かを探るような視線。
「ルル、準備はいいね?」
『うぁい!頑張る!』
気にしてもしょうがない。
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