勇気をくれる



「ニャース!」
「ニャ…」

ラッタの攻撃を受けて地面に転がるニャースに駆け寄って傷だらけの体を抱きかかえた。
いつもブラッシングをしてもらってる毛はボサボサになって、クリーム色に赤が散らばる。それでもまだ戦おうと、あたしを守ろうと立ち上がるニャースに涙があふれる。
このままじゃだめだと、しんぞうがどくどく鳴っている。どうにかしないと、でもどうやって?あたしにできることはなにもない。
ガキンッ!とまたニャースが戦う音が聞こえる。

「にゃぶっ!」
「わ、ね、ネコチャン!?えっ、え!?」

泣きながら頭を抱えていると、いつの間にか、さっきのネコチャンがあたしの膝を小さな手で叩いていた。川の向こうにいたはずなのに、どうして、どうやって!?ネコチャンも傷だらけで、あたしに木の実を取ってって、言って、

「あ、」
「にゃーにゃぶ」
「ネコチャン、あなたも川…」

ネコチャンのヒゲからぽたりと水が落ちてあたしのズボンを濡らす。あたしよりずっと小さいのに、逃げちゃっても良かったのに、傷だらけでネコチャンもいたいのに、もしかして。助けるために、頑張ってくれたのか。

「ねこちゃ、」
「にゃぶ!」
「!えっ、え?」
「にゃぶにゃぶ!」
「ニャー、ニャ」

ニャースの隣にネコチャンが並ぶ。何かを訴えるネコチャンに、ニャースはあたしを見て何かを考えるような顔をする。ニャースが何かを考えている間にも、ネコチャンはあたしに向かって叫ぶように何かを訴える。どう聞いても鳴き声にしか聞こえない叫びに、どうすればいいのか分からなくて混乱する。ネコチャンはあたしになにを言いたいのか、

「!ネコチャン!ニャース!ラッタが!!
「シャァ!」
「っにゃ、にゃぶ!!」
「ギシャァア!!?」

あたしたちが考えている間にも、ラッタたちは攻撃を休めてくれない。
ラッタの前歯がネコチャンに当たる、と思った瞬間。ネコチャンは背中を赤くとがらせ、小さな口から太陽のように燃える火の玉を繰り出した。
それは、窓から見えたキラキラよりもっときれいで、胸が熱くなって、まるで炎が涙を拭うように、ピタリと涙は止まっていた。。

「にゃーぶ!」
「え、」

あたしの前に着地したネコチャンは、あたしを見上げてまた叫ぶ。
黄色い目がまっすぐあたしを見つめる。

『戦え!ヒトの子よ!』
「!!?」

胸の奥に重たい声が響く。
強く重く響く声は、どこを見渡してもいない。

「たたかうって、てれびの、トレーナー…、あたしが?む、むりだよ!!」

そう口に出してまた涙がこぼれそうになった。
ポケモンは好き。でも学校でも仲良くなろうって、でもできなかった。
”ユヅヒちゃんはトレーナーになんかなれっこないよ!”
頭に声が響く。
”ユヅヒちゃん変だからポケモンさんも嫌だって!”
手が震える。
みんなと違うのは変だって。何にもできないのはおかしいの。

「あたしは、何にもできない変な子だから!」
『違う!』

頭に声が響く。さっきのとは違う、幼くて少し震えたような、でも力強い声。

「っ!」
『お前は!俺を助けようとしてくれたいい奴だろ!!』
「、……っ」
『諦めんな!お前は一人で川を渡れるすげえ奴だ!だから、俺と一緒に戦え!やる前から諦めてんじゃねぇ!』
「〜〜〜っ!!」

涙が落ちる。

「やる!頑張る!ネコチャン!ニャース!」
「にゃぶ!」
「…ニャ!」

涙をふいて、しっかりと地面を踏みしめる。
だいじょうぶじゃないけどだいじょうぶ!すごいって。すごいって言ってくれた。いっしょに。

「あたしも戦う!」
「ギシャァアア!!!」

頬を叩いてラッタをにらみ返す。

「ネコチャン!火の玉!ニャースはひっかいて!」
「にゃぶ!」
「ニャ!」

ネコチャンの火の玉でラッタの動きを鈍らせる。そのすきに、ニャースが背中に回ってラッタをひっかいた。よし、当たった!

「シャァア!」
「ニゥ!」
「う、まだ!ニャース、めざましのおと!」
「ニャーン!」

ニャースがツメを擦りあわせ、ギリギリと黒板をひっかいたような音を奏でる。その音を聞いた瞬間、ラッタは顔をしかめて苦しそうな声を出す。でも、ラッタは音を無視してネコチャンの方へと飛びかかってきた。ラッタの前歯がネコチャンに当たり、ネコチャンは勢いよく弾き飛ばされ、木の幹にぶつかる。爆発したみたいな音に指先が冷えるが、ぐっと握りしめてネコチャンを呼ぶ。

「ネコチャン!」
「に、…にゃあ!」
「は……よかった…」
「にゃあぶ!」
「う、うん!ニャース、ひっかいて!」

ネコチャンに怒られ、慌ててニャースに指示を出す。

「ニャァ!!」
「ギシャ!!」

ガキィンッ!とニャースのツメとラッタの前歯がぶつかり合う。
耳にギンと響く音に耳を塞ぎながら、ニャースを見る。競り合って二体ともが動じにお互いから距離を取る。
荒い息づかいだけが響き、空気がピンと張り詰める。
ラッタが重い息を吐いた。その瞬間。気づいたらネコチャンに向かって叫んでいた。

「ネコチャン!もう一回火の玉!いっぱいだして!」
「にゃぶ!!!」

ゴウッ、と強く、大きく燃える炎。

「わ、あ!!」
「ギシャアァァアア!!!」

ラッタに向かって飛びかかるネコチャン。一瞬反応が遅れたラッタは、大きな炎でできたキバに焼かれ、爆発と共に川へと落ちていく。

「あっ!だめ!!」
「ニャ!?」
「にゃぶ!?」

ラッタに向かって手を伸ばす。ラッタの黒い毛をつかんだ途端に、何かに体が引っ張られる。
驚いた拍子に口の中に水が入って大きくむせる。でも吐き出した息は戻らず。空気のない水の中で視界が暗く閉じていくような感覚がした。


「カプ――――――!!!!」

「っ、げほっげほ、う゛っ」
「にゃぶーー!!」
「ニャーー!!」

黄色い何かに抱えられ、いつの間にか水の中からお月様の前へと移動していた。

「あ、れ」
「ギシャ…」
「…もしかして、助けてくれた…?」
「コッ」

大きなとさかのあるポケモンがうなずくように鳴く。
ずぶ濡れでずっしりと重いラッタも無事なようで、じわじわと体から力が抜けていく。

「そ、か……ラッタも、良かった」

腕の中できょとんとした顔のラッタをぎゅっと抱きしめ、急激に襲ってきた睡魔に身を委ねるようにして、あたしは目を閉じた。

「あり…が、とぉ」



『よく頑張った』

そう、誰かが言ったような気がした。



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