勇気をくれる



「ほんとにもう、心配したのよ!」

真っ白なベッドに座るあたしのほっぺを両手で挟むママは、怒っているような、泣いているような不思議な表情で、あたしは小さな声でごめんなさいと謝ることしか出来なかった。

気づいたらおうちの前に寝かされていて、物音に気づいたママが大慌てでポケモンセンターに連れてきてくれたらしい。ニャースとネコチャンも一緒で、隣のベッドにはクリーム色と黒色が仲良く丸くなっていた。
襲ってきたあの大きなラッタは、あたしが寝ている間にきのみをいっぱい持って森へ帰っていったらしい。ジョーイさんが「傷も浅かったようだし、心配はいらないわ」って言っていたからひとまずは安心。「ラッタたちの縄張りには気をつけるのよ」とも言われ、自分の軽はずみな行動にものすごく反省した。自分たちのお家に邪魔された上に、木の実まで取ってしまったんだ。怒るのも当然だ。もしもあのラッタたちにまた会うことがあったら、ちゃんとごめんなさいって言おう。……すっごく怒ってたから聞いてもらえないかもしれないけど…。

「ネコチャン、大丈夫かな」
「ええ、ジョーイさんが手当てしてくれたからもう大丈夫よ」
「ニャースも…頑張ってくれたの、」
「うん、」

ママはあたしの頭を撫でながらやさしく頷いてくれる。

「あのね、ネコチャンがね。あたしのことすごいって言ってくれたの」
「ネコちゃんが?」
「うん!ネコチャンが、あたしに勇気をくれたの。だからね、一人で川も渡れたし、川の向こうにきのみを投げることだって出来ちゃった!」
「――!…っ……そう、頑張ったのね。たくさん…たくさん、うん。頑張ったね」
「うん……頑張れた!」

ぎゅっと、ママが苦しいくらいに抱きしめてくれる。ママの背中に手を回すと、もっと強く抱きしめられた。苦しいけどいやじゃなくて、優しく笑うママの笑顔を見ると、胸のおくの方がなんだかぽかぽかした。







ニャースとネコチャンの怪我もすぐに良くなって、夕方にはお家に帰れた。んだけど…。

「ニャビーは島巡りをはじめる子供たちに託す予定だったのですが…すっかりキミに懐いてしまったようですな!」
「うん!ニャビーもユヅヒを信頼しているようだし、すっかり良いコンビだな!」
「そのニャビーはユヅヒに託しますぞ!」
「は、はぇ…?」
「にゃーぶ」

お家に帰ると、おなかのおっきな人と、はだかに白衣を羽織った人と、真っ白な女の子が現れて、ネコチャンについてなんだかよくわからない話をし始めた。
勝手に納得していく二人に、女の子がこっそりと説明してくれた。

女の子によると、ネコチャンはニャビーって言うポケモンで、島巡り?をする子供たちへとプレゼントだったんだけど。そのニャビーが昨日の夜ににげちゃって、あたしと出会ったって。それで、ネコチャン、にゃびーはあたしのことをみとめて、?えっと、うん?

「これからもニャビーちゃんと一緒にいられるってことね。よかったわね〜ね、ユヅヒ!」
「えぇ!?ネコチャンはあたしのネコチャンになるの!?なんで?!」
「えぇと、ニャビーさんはユヅヒさんのことをトレーナーとして認めていて、一緒にいたいと」
「ぴゅい!」
「ぴゅぅ!?」
「あっ!また勝手に外に出ないでくださいほしぐもちゃん!」

急に夜空をぎゅっと集めたようなポケモンが出てきて頭の中はごっちゃごちゃ。ほしぐもちゃんと呼ばれたポケモンは女の子に怒られているけど、ニャースにちょっかいをかけていた。そんな光景をぼーっと眺めていたけど、そっと背中に手を置かれて、優しく微笑むママの顔を見上げた。

「ニャビーちゃんがユヅヒと一緒にいたいって言ってるんだよ」
「あたしと、?」

ママがあたしの大好きな笑顔でそう言った。

「にゃぶ」

足下にいるネコチャンを見ると、頷くように鳴いて、あたしをじっと見上げていた。

「……あ、あたし…何にもできな、うっ!?」
「にゃーぶ!」

怒ったように飛びついてくるネコチャンに驚いて、勢いよく尻餅をついてしまう。お尻が痛いのに、ネコチャンは柔らかい肉球をあたしの顔に力強く押しつけて何かを訴えている。

「あらユヅヒ、何にもできないことないわよ」
「ぅえ?」
「ポケモンと一緒なら、ひとはなんだって出来ちゃうんだから!」

パチンと目の前で光がはじけて見えた気がした。

「なんでも…」
「にゃぶ!」

答えるようにネコチャンが鳴く。
昨日みた大きなお月様みたいなキレイな目。それを見てると、胸の奥からあったかいものが湧いてきて、本当に何でも出来そうな気がしてくる。

「ネコチャン、あたしと一緒にいてくれる?」
「にゃぶ!」
「ネコチャン、ううん。”ヨル”!」
「にゃむ?」
「ネコチャンの名前!」

おっきなお月様が浮かぶキラキラした夜、まっくろな体に浮かぶまん丸な黄色い目、昨日の夜みたいにあたしに勇気をくれるヨル。

「あたしはユヅヒ!よろしくね、ヨル!」
「にゃーぶ!」




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