言えない
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数百万年のうちの四百万年はステイシス状態だった事を思えば、大した時間じゃあない。しかし、デストロンのリーダーたるメガトロンに会ったとしても、敵という態度を崩せないのは、メガトロン至上主義のシルバーウィングにとっては苦痛だった。
それでも、サイバトロンに混ざって程良く普通でいつつ、少しはやる赤い女戦士を演じられるのは、他でもなく過去にメガトロンに褒められた時や、任務入りの労いの言葉の記録音声を、時たま聞いているからだった。
この記録音声を聞くだけで、やる気も気力も湧いてくるのだから、帰還後に直接声を掛けられたら、どうなってしまうのだろう、とすら思ってしまう。けれど、シルバーウィングの帰還が叶うのは、戦争の終わりでしか無い。シルバーウィングの得た全てのデータは、サウンドウェーブとのリンクラインから常時閲覧可能な状態なのだ。いつどこで、サウンドウェーブが情報を参照しているのかすら分からないように隠されたリンクは、発覚してもシルバーウィングがハッキングされたのだとサイバトロンには思われる様に細工されているものの一つだ。時折、まるでウィルスの様に投げ込まれる命令も、シルバーウィングには命令だと分からない様にされている。
当然、コンドルの邪魔して良いブラフの時と邪魔してはいけない時の違いもリンクラインで投げ込まれる為、ほんの時たまワザと発見してアイアンハイドを呼んだり、ビームガンでスレスレを撃ったりして悔しがる何てお手の物だ。
「メガトロン!今日こそ決着をつけてやる!」
「やってみろ、コンボイ。出来るものならな!」
リーダー同士の戦いは、もう何度目だろう。早くメガトロンの勝ちで終われば良いと常々、思ってはいるが、当然表に出す事はせず、シルバーウィングが本当はデストロンだとは知らないスタースクリームにビームガンを向けて憂さ晴らしをする。
「撃ち落として八つ裂きにしてやるわ!スタースクリーム!覚悟なさい!」
「抜かせ!俺を撃ち落とせる訳がねぇぜ!シルバーウィングちゃんよぉ!」
−−−甘いわ、ここでスタースクリームじゃなくてサンダークラッカーを死なない程度に撃つのが狙いよ!
「くッ!外した!……けどラッキー!」
「うわあああ!ダメだ、コントロール出来ねぇ!」
トリコロールは悠々飛んだままだが、水色のF-15が煙を上げて、ふらふらとスタースクリームへ激突、巻き込んで墜落した。ちょうどメガトロンとコンボイもデストロン劣勢で引き分けたらしく、メガトロンの撤退命令が飛んで来た。
「くそッ!覚えてやがれ!」
「はいはい!アタシの勝ちで覚えとくよ!」
サイバトロン基地へ帰還し、リペアするラチェットの整った顔立ちをボンヤリ眺めているシルバーウィングに、バンブルが無邪気に話し掛けて来る。
「凄かったね!シルバーウィング。サンダークラッカーとスタースクリームをいっぺんに遣っ付けちゃった!」
いや、ワザとだからと言いたいのを抑えて、謙虚なフリで首を振った。
「いやいや、アレは幸運だったのよ。アタシ、本当はスタースクリームを狙ったの。偶然当たったサンダークラッカーがコントロールを失ったおかげで、そのスタースクリームも空から降ってきただけよ。もう少しコンボイ司令官みたいな射撃が出来たら良いのになぁ」
コンボイの射撃の腕は敵ながら感嘆するレベルのものなのだ。これは正直なシルバーウィングの気持ちだった。
「まあ、コンボイ司令官は射撃の名人だからね!シルバーウィングも訓練では凄いのになぁ」
そりゃあ、デストロンを撃つ時はワザと外してるんだもの、とは言えないシルバーウィングが口を開こうとした時、リペアを終えたらしいラチェットがやって来て二人の頭にポンと手を置いた。この手が実は嫌いじゃない。
「良いかい、バンブル」
「何さ、ラチェット」
「動く的と動かない的じゃあ、全然違うだろう?シルバーウィングの腕だってサイバトロンじゃあ良い方さ」
「それもそうか」
言おうとしていた事を全て言ってくれたラチェットに、礼を言おうと思っただけでシルバーウィングの顔には少しだけ笑みが浮かんだ。
「まあ、動く的にあんまり当たんないってのは本当だから。ありがとね、ラチェット。ちょっと元気出たよ」
「そうか、良かった」
そう言って笑うラチェットは、悔しいくらいにカッコ良くて、眩しくて、スパークがちりちりと焼けるように痛かった。
情報をいつでもサルベージしに来るサウンドウェーブに、感情が伝わらない事だけが、シルバーウィングの救いだった。
誰にも言えない事だけが増えて行く
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