煙崎マリレーナはまたなのか、と思っていた。しかし少しオカシイとも思っていた。何がオカシイのか、それは前回は完全なるハッピーエンドと言える人生だったとレナは自信を持って言えるものであった。
確かに4回は似たような人生を繰り返している。その前にも全然違う人生もあったが、この繰り返している人生は前回でやっと終わりだと安心していたのに、5度目の煙崎マリレーナと言う人生が始まっている。
何が正解だったのか、しっかり全てを“解決”したと思っていた。アレが最適解でないのなら、残るは2つくらいだろう。けれどそれはレナにとっては選びたくなど無い選択だった。
少しばかりオカシイのは、前回やそれより以前の時の家族とは様子が違う両親。兄弟姉妹は居ない…しかしそれは幸いだったとレナは思っていた。
今回の親は、一般的に言えば屑な人間であった。ただの鉄拳制裁であれば未だマシで、父親は直ぐに暴力を振るい、仕事にも就かずに酒浸り。母親は物心着く頃にこの世を去ってしまった。
波紋の呼吸で痛みを和らげ、ディープ・パープルで酸素を確保すると言うこの生活を、あの姉や兄には経験して欲しいとは思えなかった。
「おい、レナ!」
「何?父さん、薬が欲しいの?」
「馬鹿言うんじゃねえ!そんなモン、買ってくる金があんなら酒だろうが!」
「でも父さん、最近はおつかいだって言っても未成年には売ってくれないのよ」
「んなバカなことがあるか!」
咳き込みながら、父親はレナにグラスを投げ付ける。頬を掠めて壁に当たったグラスは砕け散る。こんな事が日常だなんて、あの日に至るまで続くのかと思うと、レナはスタンドを使ってしまいたくなる。あのディオの子供の頃のような生活だと思っていた。
ーーけど、私を舐めるんじゃあないわ。皆に会う為なら…たかが17年を耐えるなんて簡単な事だわ。
家にある物や町のゴミを漁り、リサイクルショップに売りに行っては半額の弁当やパンと、ドラッグストアで効くかもしれない効果を考えて市販薬を買う。
そんな生活を送っていた。
それが終わったのは、唐突だった。
半額弁当と市販薬を買って帰宅すると、家には見覚えのある男性が居た。見覚えとは言っても、今生での知り合いではない。最初の時はあの旅の事が漫画として存在している世界だった。その時に見た漫画に載っていた男性だ。あの人はハットを被っていないウィル・アントニオ・ツェペリにしか見えない。
思い当たる節…となると今回も母の血筋か。しかしずっと昔の人ではないのか。レナは不思議に思っていた。
「こんにちは、君はマリレーナで合っているかな?」
「はい、どちら様ですか?」
自分に用があって訪ねて来ているらしいのは分かったが、用があるとしたら死んだ母の事だろうかともレナは思ったが、母が死んだのは10年以上前であり、レナは何も覚えていなかった。
「私はウィル・アントニオ・ツェペリ。君のお母さんの兄だ。遅くなってすまないね、君を迎えに来たんだよ」
意味が分からない事が増えてしまった、そうレナが思っていると、彼はレナの頭を撫でて家に向かい直しインターホンを押そうとした。
「待って下さい。父は、最近ほとんどベッドから起きられないんです。インターホンを鳴らしても出らないでしょう」
ずっと痛み止めを服用している。それでも痛みは直ぐにぶり返して来るらしく酒を欲しがって喚く。波紋では和らがない痛みらしく、今日も痛み止めを買って来たのである。
「ふむ、そうか。家に入れてくれるかね?」
「はい。どうぞ」
ーー私を迎えに来たと言うのなら、任せておけば良いか。この生活から抜け出せるのが早くなるに越した事はないわよね。
「ただいま、父さん。薬はを買ってきたわ…父さん?」