諸伏兄の同期は転生者である

私、名字名前は警察官である。その父である昌典もまた警察官だ。母は専業主婦としてほんわかと父を支えているが、意外にも自衛官だった過去を持つ。一つ上の兄も自衛官らしいが、父と同様、はっきりと所属を言う事は無い。つまり父も兄も、そういう部署の人間だと言外に伝えている様なものだ。
両親をはじめ、警察官と自衛官の親族の多い名字家で育った今世の私は、国家公務員採用T種試験にきっちり受かった。いずれ廃止されて国家公務員採用試験総合職に変わるのかな。
両親の優秀な脳様様である。いや本当に。何せ前回は同じ警察官と言えどノンキャリアでしたからねえ。最終的には警視庁生活安全部内にある警視庁サイバー犯罪対策課の班長だった。四十代で一応は警部でしたね。パソコン通信時代を知る根っからのPCオタクだった故に任されたんだと分かっている。実際に結構オタ知識は役立った。
今回はキャリア……所謂背広組だから、生きていて仕事真面目にしてるだけでもいずれ警視くらいにはなれる。いや、スゲー忙しいのは分かってる。上に行こうが、下っ端だろうが、忙しい。だってココはあの、頭脳は大人で見た目は子供な名探偵が出現する可能性の高い世界だ。ビックリだよね、米花町とか杯土町とか有るし、何より私の母校の東大が東京大学じゃねえのよ……東都大学なんだよなあ。
キャリアだろうと現場は経験しなければならない。警察学校に半年居て、その次の研修時代は交番勤務や交通取り締まりがお仕事に成る。所謂、卒配ってやつですね。私は警視庁警察学校だったが、数ある所轄等含めた警察署の中でも勤務先は警察庁からの出向として、長野県警警察本部だった。別に米花町を離れても事件って思いの外、多いなと思ったが、事件数のデータ見たらそんな事無かった。やっぱり東都の方が多いよ。
例えば交番勤務なら巡回連絡中に引ったくりを確保とか悲しいことですが、いつもの事。殺傷事件も結構起きる。ビックリよ。
その七か月後は一度、警察学校に戻されて二か月の仕上げ期間である初任総合科だな。コレを終えて初めて一人前の警察官として認められる。大卒でコレだ。高卒だとトータルで半年程長い。
現場勤務なのだがココでも私は相変わらず多忙だった。まあ、捜査一課に居たのは、これからたったの一年だったな。さっさと警察庁に戻されて、スパイ養成みたいな事を受けた。いや、現場には滅多な事では出ないのだが、そりゃあ現場の事も知っとけよって事らしかった。分かるよ、現場を何も知らん奴が上に立つとヤバいよね。だからこそキャリアでも最初から警察庁内での勤務じゃあ無くて、各都道府県警本部や所轄に行くんだもの。
んで、バリバリ社畜いや公僕か。公僕やっているのだが、私は自己責任の違法作業として、前世知識のフル活用を決めている。バレなきゃ犯罪じゃあ無いのよ、て言うのを地で行く……其れが私のいる場所だ。
三十一になる年、課長である上司の推薦で昇進試験を受け警視正になった。複数いる課長補佐の一人として幾つかの班を受け持つ事になり、情報を確認していた時に、違和感に気付いた。
潜入捜査官として自分の部下の更に部下となる作業班の一人のデータが書き換えられていた。最新の指示書の一つだが、コレは業務に必要のない登庁指示だ。やけに頻繁に出される必要のないソレに首を傾げる。この指示された業務は誰でも出来る仕事だろう。前任者が全ての指示を独立したPCに残していたので知れた事だ。違和感を持ったままで通常業務を進めてはならないと嫌な予感がした。全ての指示書を早急に確認して、前任者である現在は別の課の課長となっている大野警視正と言う男のデータも色々とチェックした。
「ふうん、勘ってやつも馬鹿に出来ないものねえ……」
消したつもりだろうデータだって、ちょっとの知識で復元するのは簡単だし、そもそも名字の知識は、この時代としては最も最先端よりも先を行っている。きっちりと復元したデータを証拠として裏の理事官へ持ち込んだ。

***

組織にNOCノックだとバレてしまった!逃げ回る中で、つい最近変わったばかりの繋ぎ役に車で拾われた。何でも、俺たちの上司の上司の命令らしい。こちらも繋ぎ役よりも早く変わっていたらしく、この人が見つけた情報から俺の危険を察知したのだと繋ぎ役である赤井に聞かされた。詳しくは逃げ切ってからだと後部座席に横たわりブランケットを被せられ、しばらく経てば知らない一軒家に案内された。この樹々に囲まれた日本家屋はセーフティハウスの一つらしい。そこに居たのは、見覚えのある黒髪の女性だった。
「久しぶりだね、諸伏くん。色々と聞きたい事も有るでしょうけれど、先ずは生きている内に回収出来て良かったよ。コレから偽装工作用に、血液の採取を受けて貰うよ」
大人しく採血された後、その血を利用しての死人顔のメイクをされて血糊塗れにされてブルースクリーンの張られた部屋で死んだフリをさせられた。其れを撮影した名字さんに着替えのスーツ一式と髭剃りセットを渡されて、ゆっくり風呂に入る様にと風呂場に押し込まれた。言われた通りに血糊とメイクをメイク落としクレンジングで落として、用意してあったシェービングジェルと安全剃刀で髭を剃って、用意されていたシャンプーや石鹸で汗を流し、張ってあった湯船に体を沈めた。
名字名前さん……兄の同期であり、兄の大学時代から続く恋人のはずの人だ。
「まさか名字さんがゼロの上司とはね……世界は狭いな」
風呂から上がって居間に行けば、小さなペットボトルのお茶を飲む名字さんが居た。俺に新しくペットボトルの茶を差し出し、昔と変わらない声音で名字さんは現状を説明してくれた。
「スコッチの死は偽装出来た。殺したのはバーボンという事になってる。諸伏は念のために検診を受けて貰ってから、しばらく内勤ね……三日後に赤井を迎えに寄越すから、ちゃんと休んでおくように、良いわね景光ひろみつくん?」
「わかった。まさか名字さんが上司とはね」
「ああ、私も驚いたよ。君が私の前任者に売られているとはね……そちらはキッチリと評価されているわ」
そう言って飲み切ったペットボトルを濯いでごみ箱に入れた名字は薄く笑んで更に口を開く。
「私、貴方の義姉あねになってるけど、名字旧姓で呼んでちょうだい。同じ姓が同じ班だと分かりにくいからね」
「え?!あ、分かりました」
「ああ、それから。基本的に高明たかあきの所に居るけど、君の甥にあたる三歳児が時々ここに来るから、仲良くしてあげてね」
「は?!甥?」
「そう、甥よ。高景たかひろって言うの。高いに景光のヒロで高景……あの子に妹なり弟なり出来るとしたら、組織を潰してからだから、頑張らないといけないのよね」
にっこり笑う義姉の目は幾つもの感情が渦巻いている気がした。
「そうそう、食材は有るから好きに使って。ここ私の家の一つだから遠慮は要らないよ。それじゃあ、また」
そう去っていく義姉の後ろ姿は、最後に会った時と同じはずなのに、凄く兄に似ていた。

***

これまで、内勤ばかりだった故に東都内で私を警察官だと知る人間はほぼ居ない。同期なら何となく分かるだろうが、比較的近しかった者は私が結婚したのだと知っているから、辞めたと思われているだろう。実際に此方の領域に居ない同期では、本当の事など分かりやしない。
別居してはいるが、互いの非番が重なるように私が調整して、せめて月に一度は家族で会うようにしてはいるが、其れじゃあ足りない。自分の子に母として認識されなくなっては耐えられない。幸いな事にテレビ電話で週に三回は家族で話すようにしているために、まだ繋がりが有り、高明が私の事を「お母さん」と電話で言って聞かせてくれているから、あの子は私を、そう見てくれている。一緒に過ごせばいつも私に抱っこをせがんでくれる……当然、同居している高明の方が家族として懐かれている。早く組織を潰してしまって、そうしたらもう少し上に行ける。下も育っているから、私は公安を離れて所轄の幹部クラスへ移動となるだろう。そこで九州や北海道に飛ばされたりしたら、もう辞めだ。意外に国家公務員であるキャリアの私達の給料は、下手したらノンキャリより低くなる事もままある。
私は確かにこの国を守りたい。かと言って、その為に家族を蔑ろには出来ない。どちらも大切だから、どちらも守る。そう、結婚した時に決めた。私の都合で結婚式も披露宴も当然無かった。結婚した証は、指に着ける事のない指輪と、一枚だけの結婚写真。
そうして私と彼の子……この三つの存在だけが私達が家族だと示している。私を私たらしめる大切な人たち。全て守りたいから、私は全力でいつも違法作業だってやるし、其れを露見しないように出来る。そして其れは、この国を守る事に繋がっている。
以前とは違っているけれど、逆に今の方が私は戦えているらしい。結婚して子供を産んでからの方が、仕事が丁寧で早くなったと、一つ上の同僚に言われた事が有る。デスクワークが殆どだから、と大きなお腹を抱えてギリギリまでPCの前に居た私を知っている今でも同僚の神戸警視正は、私をそう評す。
焦りはしない。今までだって沢山の油断を切り崩して来た。防護服を着たがらない新人から、義弟の救出、偶然を含めれば色々な油断を見つけては対処して来た。もしあの作品の通りに進むのならば、あと三年程で大きく動きが有るだろう。兄も妹も潜入調査中らしいのは既にデータとして見つけた。けれど、前任者が作り上げたNOCリストは破棄した。新たに作る事はしない。さあ、バーボンには頑張って貰わなければ……赤井秀一はFBIじゃあ無い上に、私の班に居る。現場に出たいからと昇進試験を蹴りまくるのが難点だが、其れ以外はとても良い働きをする。降谷の右腕が風見なら、私の右腕は赤井だと言える程には働いてくれている。
さて、原作なんて気にせずに動こう。今までもそうだったのだ、何とでもなる。

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