名字名前は探偵ではない。file.1

私は名字名前。幼い頃から本の虫だった。サイエンスフィクション、ファンタジー、ミステリー、ノンフィクション、伝記、辞書、地図帳、漫画に至るまで、文字さえ書いてあれば読み漁った。一応は大学まで行かせて貰えた為、幅広い知識を吸収するのに時間は沢山あった。運動不足を気にした親に高校の時に放り込まれた剣道の道場が警察署の隣で、そこの先生は元警察官ばかりだった。そこの先生には「お前は警察に向いてるぞ!」と良く言われた。其れは思いの外、私の心に響いていたらしく、大卒後は警察大学校へ入学、最終的に生活安全部サイバー犯罪対策課に入って、そうは経たない頃、警部の時にお見合い結婚し、子供が出来たのを機に辞めた。その時の夫は警察官だったが、妙だなと結婚後すぐに思った。
家族写真は私と子供だけ、夫はカメラマンに徹していた。それでいて、家の二階に写真の現像用の暗室と写真用だと言う作業場が有った。そこには誰も入れないし、帰宅した時には必ずコンセントや棚等を気にしていた。極め付けは所属を明らかにしない事だった。
何となく分かってはいたから何も聞かなかったし、子供にも不思議な其れが分からないように、気を配った。
歳をとって、子供が成人する頃、夫は他界した。その時に夫の所属が予想と当たっていたと知った。程なく私も死んだ。ハズなのだが、良く知ったはずの日本の知らない街に生まれ直したらしい。

私はつるぎ千夏ちなつ。名は変われど、本の虫である。

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すげー名前だな、と最初は思った。詳しくはないが、ヅカ女優の芸名みたいだなと。
そして、成長し行動範囲が広がる度に、おや?と思う事が増えた。先ずは、新宿の近くに米花町、杯戸町と言う知らない地名、が有った。その米花町に私の生家が有り、帝丹小学校が有った。妙だなと思った私は、記憶から聞き覚え・見覚えが無いかを探した。先ずは地図帳の記憶……此れじゃあ分からず、小説の記憶を辿れば、米花町がシャーロック・ホームズのベイカーストリートに思えてきた。そこでハッとした。そういや、幼馴染みに連れられて、だいたい毎年行くアニメシリーズの映画版の一つのタイトルに「ベイカーストリートの亡霊」と言うのが有り、その主題が「名探偵コナン」じゃあなかったかと。
全ての映画に行った訳じゃあ無くて、漫画もアニメも見ていない為、初期のメインキャラクター以外は殆ど何にも分からないが、そうと分かれば早い。其れに出てきたアポトキシンだとか、黒の組織だのと言ったキーワードを不用意に口には出してはならない。自身はまだしも身の回りの人間に害が及ぶだろう。
しかし、この作品の人物名にはミステリー作品関連の物が多いと聞いた事が有る。其れを探すのは楽しそうだ、何て呑気な事を考えていた。

物語が現実になったなんて確かに有り得ないと言いたくなる。けれど、ホームズだって四人の著名で言っていたじゃあないか。”When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.“つまり「ありえないことをぜんぶ排除してしまえば、あとに残ったものが、どんなにありそうもないことであっても、真実にほかならない」と。色々と考えてみて、状況を見て、私の記憶と照らし合わせれば、私が此処に生きているのは本当の事であり、此処が物語の中なんかじゃあ無い、これは私の現実であると。

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剣家は親族に公務員の多い家系だった。多い順に警察官、自衛官、医者、教師、エトセトラ。かく言う両親も警察官で有り、本の虫である千夏は、両親により元警官が先生をしている柔道教室へ通う事になった。
ーー前と殆ど同じだわ。まあ、体動かすの好きだし、本は好きなだけ読ませて貰える環境だし、お金掛かるだろうに有り難い。
と、千夏は中学、高校を勉学に励むのは当然だが、其れ以外を読書と柔道に費やした。
受験したら受かった、と言う理由で東都大学へ入り、大学在学中に読みたいタイプの本が足りないと言う理由で、小説を書き始めた。元々、前回は同人活動として細々とでは有るが、書く方でも有った為自然な流れだった。

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大学を出たら、前と同じく警察官への道を歩むつもりで本庁採用の警察大学校研修へ進んだ。けれど、いつかの様に配属される前に偶然、書いていた小説が御近所さんだった元女優の工藤有希子と言う女性に知られて、其れが彼女の夫の小説家である工藤優作にも知られ、あっと言う前に小説家デビューさせられそうになり、慌てていた所、表向きの身分として受ける様に言われた。どうやら今回は私が公安らしい。

こうして、新人小説家名字名前は書籍の帯に工藤優作のアオリをつけて、世に出た。帯のおかげだろうが、有り難い事に結構売れた。
処女作はミステリー小説「ネロリを見つけて」。警察官の夫を持つ三十代で元婦警の古谷透子が主人公。名前は前回の時に知った、古谷徹と言うボイスアクター、キャラクター像は前回の自分がモデルだ。キーワードはオレンジ・ブロッサムと言うカクテルとネロリの香りが入った香水。ラストシーンのバーでジン・バックを飲みながら夫のとある事について考えているところで終わる。
既に続編で二作目を、と出版社から言われている。まあ、同じ主人公で書き溜めていた分が幾つか有る為、大丈夫だろう。
名乗る必要がある時は、ペンネームであり、本名という事になっている名字名前を名乗り、本名は当然名乗らない。小説家だとは周りに知られている。むしろその方が良い。
行きつけの喫茶店の一つ、ポアロは昔ながらの喫茶店でコーヒーも紅茶も美味しい。極め付けは店名がポアロと言う事。
ーーエルキュール・ポアロ……アガサ・クリスティの推理小説に登場する探偵の名前だ。潔癖と言えるほどの綺麗好きで身嗜みに気を使う男。中々に良いキャラクターだ。前の時、小学生の頃に読んだ記憶が有る。
執筆の時は、大学の頃から此処も利用していた。すっかり常連になったと思う。
喫茶店でコーヒーを飲みながら小説を読む、何て楽しい時間も過ごした事も有る。そして、他の誰かがそうしている時の書籍が、自分の本だった時は心の中でテンションが上がる。
そうして古谷透子シリーズは最終章となる五作目までベストセラーであり続けてくれた。ラストは、透子の追っていた事件の調査を夫に止めるよう忠告され、其れでも調査を続けた結果、追っていた犯人に撃たれ、駆けつけた夫の部下に「伝えて、立ち止まらないで、と」と言って透子は死ぬ。其れを受けて、夫の古谷蓮司は絶対に犯人のテログループを壊滅させると誓うシーンで終わった。
コレも続編を!との声が高く、全く違う作風で良ければ、と答えた。今後はスパイアクション的な話になる予定だ。主人公の事等を書き換えて、透子の夫である古谷蓮司と部下の樋田則夫、二人の公安警察が主人公になる様にする。
此れも作風を変えた故にどうなるかと思っていたが、思いの外、盛況だった。約二か月毎に出している為にデビューしてそろそろ一年になる。凄くハイペースだとは思うが、まあ未だ日々書いた物がストックしてある。
この日もストック分の執筆の為に、ポアロへ向かった。

「いらっしゃいませ!あ、名前さん、良い茶葉が入ってますよ」

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2020/01/08
主人公はコナン本編始まった頃は小学生で、最初の頃しか見てないので、FBIの事も赤井、安室等の事もほとんど知りません。映画も、成人してからはだんだん見に行かなくなったので。原作知識は無いようなモノですね。