05-桐生と錦山


ひまわりには実のところ、あまり馴染めていない。
けれど、ほんの時たま会える人たちが、名前の心の支えになっていた。

例えば桐生一馬。遠くなりつつある記憶に残る彼より若いけれど、トレードマークになっているグレーのスーツに赤いシャツの姿だった。けれどセレナで彰さんや由美さんに見せてもらった数年前の写真に収められた一馬さんの服装は正直、ダサかった。グレーのスーツをダサいと思うけどな、と言う彰さんに、写真のそれより良いんじゃないかと言ってしまうと、一馬さんは言葉に詰まって、彰さんと由美さんは爆笑していた。麗奈さんも笑っていた。
「え?カッコ良いだろ」
そう言う一馬さんに思わず笑ってしまう。
「なんかねぇ、ヤクザ物の映画に出て来る、へなちょこな三下っぽいんだもん」
「へ、へなちょこ!へなちょこだってよ一馬!」
彰さんがテーブルをバンバン叩いてヒーヒー言っていた。
「な!オレがへなちょこ?」
凄くショックらしい。
「やだ、名前ちゃん、面白いわねぇ」
麗奈さんが背中を向けて肩で笑っている。
「本当にダサいのは同意しちゃうわ。今の方がいいって事もね!」
爆笑の渦はひいたらしい由美さんがクスクス笑いで名前に同意する。
「由美まで……」
「一馬さん、ごめんね。私、言いすぎだった。ねぇ、私、神室純恋歌覚えたから、一緒に歌おうよ」
あんまり落ち込む一馬さんが可哀想になって言えば、一馬さんは頷いてマイクを持ってスタンバイしている。
「ハイハイ、神室純恋歌ね。名前ちゃん、渋いわねぇ」
麗奈さんがカラオケをセッティングしてくれている間に、一馬さんの隣でマイク片手に立つ。

半分ほど歌ったところで、セレナのドアが開く。歌いながら、ドアを見ると吾朗さんが立っていた。何も考えずにいてもパッと笑顔になる。
「おう、やっぱりココやったな。ワシも混ぜてぇな。ママ、ワシにも適当になんかくれ」
とセレナに入って来て、当然のように飲みに混ざった。
歌い終わって、マイクを返し、カウンター席に座る吾朗さんに抱きつけば、革手袋をした手の平が頭を撫でてくれる。
「ね!吾朗さんも歌おうよ。あ、Rouge of Loveも覚えたよ!吾朗さんバージョンの合の手側も覚えた!」
「おお!そりゃ良えな!いっそママに歌うてもらうか!二人で合の手入れるちゅうんも良えやろ!」
「残念だけど、マイクは二本だけよ」
「かめへん!コッチは一つありゃ何とかなるわ!ほないこか」

ルージュ オブ ラァア〜ブ!

二人で一字一句同じ合の手を入れる。凄く楽しくて吾朗さんの促すままに合の手を叫ぶ。

「ふふ、ちょっと、面白くって歌えないわよ」

唇を!?のところで、麗奈さんが笑い出してしまった。

「はいはーい、代わりに歌いま〜す!」
麗奈さんに手を伸ばすと、そっと渡してもらえた。
次のフレーズから歌い出そうと、マイクを構えれば、吾朗さんと目が合ってニッと笑ってくれた。

欲のネオンに、汚れてくマイ ハート

Oh ルージュ オブ ラァア〜ブ!

歌い終わると、みんな妙に複雑そうな表情で笑っていた。

「名前、お前と歌うんは息が合って良えけど、この歌は似合わへん。24時間シンデレラなら歌ってええ」
久しぶりに見る真剣な表情で、しゃがんで目を合わせて言う吾朗さんに、周りを見れば、みんな頷いていた。
歌詞が大人すぎるからだろうか、と結論付けた。
「え?折角、吾朗さんと歌う為に覚えたのに。まあ、そう言うなら仕方がないかな」
「それで良え。前に聞いた時より、ごっつセクシーになっとたわ。これは悪い虫が付かんようにせな……良し、決めたでぇ!ほな帰ろか。はいお勘定。釣りは取っとき〜」
そんなにセクシーでは無いと思うが、凄く良い笑顔で何かを決めたらしい吾朗さんに抱き上げられる。一緒に帰る事になったらしい。万札をカウンターに置いて、返事を聞く前にセレナを出てきた。

「名前……明日は祭日やし学校休みやろ。オレの親父に呼ばれん限りは、朝んなったら迎え行くわ」
十一歳と言う訳で、それなりに重くなってる筈なのに、吾朗さんは物ともせずに抱き上げてくれる。やっぱり鍛えてるんだなと感心していると、朝から一緒に居れるらしいと察して思わず抱き付いた。
「明日は吾朗さんと居られるって事でしょ?やった!」
「まあ、そのつもりやけどなあ。そんなニコニコする程、楽しみなんか?」
そんなにニコニコしてるのかと頬に手を当てる。
「楽しみだし、嬉しいよ〜。何するの?」

「ええか?よ〜く聞け。オレはお前より戦闘力が上や。近くに居れば守れる。けどな、近くに居れん事もある……せやから、オレが鍛えたるわ。そこいらの連中に負けへんように」

オレはお前より戦闘力が上やってトコロに、ときめいてしまった。そして、ちょっと経ってから「鍛えたるわ」が脳に辿り着いて目を瞬かせた。

「私を、鍛える?」

「せや、名前はワシの一番弟子や!」

「真島吾朗の一番弟子って響き、カッコ良いね!でも、私に出来る?」

出来るわけないと、思いつつ聞いた。

「出来るか出来んかやないんじゃ。やるんや!ビシバシ鍛えたるでぇ!」

これ、死ぬんじゃないだろうか、と密かに思いつつ吾朗さんのやる気を削ぐ気も起きなくて、結果的に次の日から頻繁に「トレーニングやでぇ!シャッキリせんかい!」と連れ出される事になるとは思ってもいなかった。

2019/02/04 up
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