04-違う街へ
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真島は殆ど、家に帰って来なくなった。
そして、時々帰ってきては、次いつ戻れるか分からないからと、大量の食糧を毎回置いて、次の日には名前よりも早く起きて、姿を消すのだ。
段々と様子の可笑しくなる真島を当然名前は心配するが、気にするなと言われ続けた。
そんな生活が辛く、とても長く感じていたある日、バッサリと髪を切って、ヘビ皮のジャケットを素肌に着た真島が帰って来た。
その時、やっと名前はこの世界が「龍が如く」なのだと理解した。
「吾朗さん?イメチェン?カッコいいね!でもびっくりした!あ、おかえり!」
少し伸びてきた髪を先日、自分で切った名前は、いつものヘアスタイルで、いつものシンプルな服装で真島に駆け寄った。
「ただいま、名前。カッコいいやろ?もう二度も変な格好や言われてんねや。やっぱ名前は分かっとるなぁ〜!」
そう言って、歯を見せて笑う真島に、いつもと変わらず纏わり付いた。
「だって私、吾朗さん大好きやって前も言ったでしょ〜。前もカッコ良かったけど、何か今の方が良い感じがするんだよ」
「そうなんか。あ、せや、大事な話があるんや」
「この街を離れるんや。オレと来るか?」
何となく、来ないと言われるんじゃないかと、思っていた。
「行く。吾朗さんが居ないの寂しいんだよ。ここのところずっと寂しかったんだ」
だから即答した名前をしゃがんで抱き締めていた。
「ほんまに良えんやな。もう、戻れへんのやぞ」
腕の中で大人しく抱かれている名前が背中に手を回した。
「ねえ、吾朗さん……私、もう、戻れる道は無いんだよ。もう、この世で私を知るのは真島吾朗ただ一人だと思うんだ。私を助けると思って連れて行って欲しいなあ」
そこで、ハッとした。そうだ、名前にも帰る場所が必要なんだと。
兄弟と、この子の居場所は自分が作らなければならないのだ。
「せやなあ。必要なもん纏めたら、さっさと行こうな」
名前の荷物は少ない。ここに来た時に持っていた巾着袋一つに納まるほどに減った着替えと、トンボ玉の根付けだけだった。
真島は名前を連れて、即座に神室町へ向かい。風間組の事務所へ直行した。
「今度は何だ……何処から誘拐してきたんだ、真島」
柏木修が、真島と名前を交互に見て、そう言った。
「ちゃうわ。二年前に大阪で見つけた孤児や。今年で十一歳や言うんやが、学校に行った事も無いんやと」
言われるんじゃないかと思ったままの事を言われて、真島は即否定した。
「戸籍が無いって言うのか?名前は?」
「名前です。名字は知りません」
「そうか。柏木修だ。これまで、どうやって生きていたんだ」
堂々と笑顔すら浮かべて答える名前に柏木も、頬が緩んでいるが、強面は大して変わらない。
「おばあちゃんに育ててもらったの。危ないから逃げるように言われて、逃げてたら吾朗さんに助けてもらいました」
「名前の話を聞いてて思うたんが、婆さんは元、極道の女やったんやないかという事や」
「あ、姐さんって呼ばれてたのを時々聞きました。川縁で夕涼みしてたら、おじさんが話しかけて来て、その人に言われてました」
「なあ、ああ言うバッジ付けとったか?」
真島が柏木のスーツの襟を指差して名前に聞いた。
「模様は違うけど、付けてました」
「どんな模様か覚えてるか?」
「……其れは覚えてないの。ごめんなさい」
少し考えて首を振る。
「ニンベン師に頼むしかねえか。真島の妹にするか?」
真島の妹にするかと言われて二人揃って首を横に振った。
「実の妹は嫌です」
「ワシの妹は勧められへんわ。嶋野の親父にその辺は知られとるねん……でも何で嫌なんや、ワシと兄妹」
「其れを聞くのは野暮ってものですよ、吾朗さん」
にっこりと笑った顔が、歳相応に見えなくて男二人は顔見合わせてしまった。
「……丁度いいヤツいたかな」
本題に戻り、知っている者を思い浮かべるが、なかなか条件に合うヤツがいない。
「柏木さんで良えやん。こんくらいの子供居っても良いくらいの歳やろ?」
「俺か?丁度、その頃には妹が生きちゃいたがなあ……」
「ほなら決まりやな」
数日後、柏木名前と言う少女が真島吾朗の隣、柏木修の前に居た。
六年前に死んだ妹の娘で、身寄りがないため引き取ったという戸籍とストーリーが用意してあった。丁度、妹が生活していたのが大阪より西側である広島だったのも都合が良かった。更にもう一人、妹という存在しない女をでっち上げて、三年ほど前に死んだ事にしてある。そして、唯一の親族となった伯父を訪ねて、真島が見つけて柏木に届けたと言う風にしてある。
真島との出会いを含めて、嘘と本当を織り交ぜる事で信憑性を高めた形になる。
その打ち合わせ内容を名前に教えていたのだ。
「ええと、其れじゃあ、修伯父さんって呼びますね」
「ははは、そうだな。それが自然だろう。しかし本当に学校に行って居なかったのか?そこいらの若い衆より頭良いんじゃねえか?」
「まあ、世話しとった婆さんの躾が行き届いとるんやろ」
あっさり受け入れてニッコリ笑って柏木修に言う名前に二人は、それで一応納得したらしい。
柏木の親族としての籍はあるが、柏木自身が面倒を見る事は難しく、基本的には「ひまわり」で生活し、たまに顔を見せに来れば良いという事になった。
名前が思っていたより、ひまわりは神室町に近いらしい。
「ひまわり出身のヤツが堂島組に二人居る。桐生一馬と錦山彰だ、真島も知っているだろう」
「ああ、あの兄弟やな」
「近いうちに名前にも紹介しよう」
「楽しみにしてます!」
予想外のところで、若かりし桐生と錦山と会えるらしいと分かって、何より本来の錦山がどんなヤツなのか見てみたいと名前は思った。
2019/02/04 up
2019/11/21 移動
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