オンボロ寮の2人目ちゃん
オンボロ寮の後に監督生と呼ばれる事になる少女ユウが居る。その相棒としてモンスターのグリムと1人と1匹がオンボロ寮所属の生徒だが、そこに暮らす彼女と同性の生徒がもう1人居た。
後で考えれば、ユウと似た彫りの薄い顔立ちから同郷だろうと予想出来る女の子だった。少し違うのは、はじめからショートヘアのノーメイクだったユウとは違って、イデア・シュラウド並のロングヘアとしっかり彩られた化粧だろう。
だが、彼女はそんな事を考えられない程に異質な状態でNRCに現れた。
早朝、鏡の間に転がり、呻き声を上げる女に場は騒然とした。これからグリムの大暴れがあるとは知らない生徒や教師陣は今までで一番の事件だと感じていた。
手入れされた艶やかで少し癖のあるロングヘアは瓦礫の破片や砂塵に塗れ、ところどころ血で固まっていて、顔も同様に汚れて、額や頬に擦り傷が有った。
足首までの長い丈のゴシックな黒いワンピースも、クラシック過ぎる真っ黒に裏地がグリーンのローブも汚れ、解れて壮絶な戦いをしていたと予見させる。
彼女の乱れた髪の間から見える表情は険しく、眼光も鋭く警戒と困惑が有った。警戒したままに、ローブの内側に下げた革の鞄の中から空の小さな瓶を次々に取り出しては、その場に転がし、何かを探しているらしかった。
良く見れば、足首が折れていると分かるだろう。それ故に彼女は警戒しているのに立ち上がれないのだと。
騒ぎを聞き付けて、クルーウェルまでもが駆け付けた時には、彼女の周りには失血死しても可笑しくは無い程の血溜まりが出来ていた。彼女は何らかの水薬を飲み下し、震える手で衣類を脱ぎ、ブラウス一枚にスカートと言う姿だった。2人の教師が近付く頃には、ブラウスの腹部にあるボタンを外し、そこに出来た裂傷に何かの液体を垂らしていた。
「酷い出血だ…其れになんて事だ、足首が折れてるじゃありませんか…」
片膝をついてクロウリーは彼女の背を支えた。男の衣類に血が染み込んだ。
ーーー知らない声に知らない奴…敵では無い可能性もある。敵は把握出来た奴らは殆ど覚えているから…何方にしろ頼らねば何も出来ないレベルで動けない。
「…っふう、貴方の足元に落ちている中身入りの瓶を取って下さい…お願いします」
男の靴の近くに転がった骨折治療薬の瓶を女は力無く指差した。
「ああ、これですね」
屈んで片膝をついていた男は、其れを女に手渡した。
「助かります」
痛みと血液不足で震える手で、瓶の蓋を外し、どろりとした薬を飲み下す。
ギチギチと足首が内側から幾千もの針でナイフで裂かれる様に痛む。堪え切れない。
「うぐ…ひ…っ…ああああああ!!」
一気に再生される皮膚、骨組織と筋、神経、血管…骨が再生される度に患部から走る痛みとバキバキと鳴る音。
痛みにのたうつ彼女が舌を噛まない様にと、クロウリーはとっさにハンカチを口に噛ませ、跳ねる体を床に押し付けた。クルーウェルもそれを手伝い、彼女の腰を押さえた。
舌を噛まない様にと差し込まれたハンカチの意図を理解し、其れを噛み締めた女は、自身を押さえ付ける腕に思わず縋っていた。
ほんの数分だった。嫌な音は収まり、皮膚はおおよそ再生して新たな皮膚が張って、全ての傷口は傷痕となった。
けれど失われた血は戻らない。女の顔色は蒼白で死人も同然だった。
「っ…ありがとう…消えろ…はぁ…待って汚れてしまったわ… 清めよ…」
彼女が立ち上がり、Evanescoと唱えれば、床の血溜まりは消えて、Scourgifyと唱えれば、クロウリーとクルーウェルの衣類に染み込んだ血液は最初から無かったかの様に消えていた。彼女は自分にもそのScourgifyを唱えて全ての汚れを清めてからクロウリーとクルーウェルを見上げた。
「助けて頂いた事には礼を言うわ…ありがとう…」
かすれた声は低めのアルトで、けれどそこには感情が乗って居ないとクロウリーもクルーウェルも気付いていた。
「礼には及びません。ですが聞きたい事は沢山ありますねえ…」
「ええ、其れは私も同様です…」
「まあ一先ず、その顔色を何とかしなければなりません!ゆっくり休んで。お話しは其れからですよ」
彼女は驚いた様に顔を上げ、一瞬だが見た目の印象よりも少しだけ幼く見えた。
「一先ずね…まあ、それでも…あの連中より紳士で良かったわ」
その一瞬の後は、自嘲する様な笑みを浮かべ、ふらりと気を失った。
***
2020/08/15
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