01

勝色(かついろ)は昭和生まれ、平成育ちの審神者だ。所謂、過去召集組と呼ばれるが、その内実は昭和45年頃…つまりは勝色にとっての先の戦が終わった頃から約40年後に誕生し、バブル景気の弾けた平成初期の旧天領である田舎で成長し、小学校で教わった古事記から様々な歴史や伝承に興味を持ち、そこから始まり本人としては広く浅い雑学知識を持つに至った。
そんな勝色がそう名乗る前の話である。

勝色…いや、佐倉夏海は、スーツ姿の男性に怪しい勧誘にあっていた。
正直言って、夏海はスーツの男の言う審神者と言う職は知っている。其れは巫女の元に降りる神が、其の巫女と合うかを確認する存在だった筈だ。けれど彼の言う審神者とやらは、如何にも意味が違うらしい。怪しいのは、歴史を守る為に戦う為に刀剣の付喪神を神降ろしし、顕現させ人の身を以て戦う、戦神(いくさがみ)として随える将と成れと言う全てに於いてだった。
真面目に本当の事だとしても、人の身で、妖寄りとは言えど、神として定義付けられた存在を随えると言う事は、危険であると男に伝えた。随えるならば、神降ろしの意味を正しく危険であると言う事も含めて理解している必要が有るとも、信仰心や民俗学への其れなりの造詣の深さも必要だろうとも伝えて、自分では無理であると断っていた。其れでも「審神者候補者には養成所へ行って頂き、学習する期間を設けております。ですので、自信が無くても大丈夫ですよ。」と笑顔で返されるのみ。そう言う事じゃないのだ。こんな得体の知れない勧誘されて着いて行く成人など、そうは居ないだろう。小説やゲームじゃあるまいに。余程……そう、余程、生きる事に希望が持てないか、切羽詰まっているか、好奇心の塊だの、変わり者か……その様なモノは着いて行くかも知れないが。いやはや、まさか自分もそうなる
ように追い込まれるのだろうか。そう成っては欲しく無いが、勧誘の男は未来から来たとか言っていた。本当に未来から来たのなら、自分がどの様な選択を取るか等、既にお見通し……いや、既知なのだろうなと考えながら、勧誘の男が去った部屋で既に冷めた白湯を啜った。
「せめて、どんな刀剣が在るのか聞いておこう。ふふ、大千鳥十文字槍や一期一振あたりは有名だもの、きっと在るわね。」



「ええと、天下五剣の刀剣男士様も居られますよ!」
どんな刀剣が在るのかと、初めて興味を示したらしい審神者候補者である今年で二十七になる女性に、時の政府の審神者候補者への説明役である三十路の男は、2206年の審神者達が狂った様に探し求める天下五剣の刀剣男士を思い浮かべて、そう述べた。
「天下五剣ね……童子切安綱、鬼丸國綱、数珠丸恒次、大奠田灮世、三日月宗近の五口。全て揃っていると言うのね。退魔の靈刀、国宝、挙句は御物まで?」
彼女は少し驚いた様子だったが、説明役の方がギョッとした。何せ、未だ三日月宗近と数珠丸恒次しか顕現許可が出ていない。
「あ、いいえ、三日月宗近と数珠丸恒次のみです……で、ですけど!」
「ああ、良い。御座おわ
すのなら其れで、御座無ござなく候えば其れで。神々の思し召は、人には計り知れませんから。」
何を言っているのか分からず、説明役はきょとんとしてしまった。
「まあ、大千鳥十文字槍は御座すのでしょう?有名な武人の槍ですものね?」
「え?おおちどり?何ですか?」
フォローのつもりだったのだろう審神者候補者の言葉に説明役は、聞き返していた。何しろ、顕現許可の出た刀剣男士の事なら配られる資料からの知識が確りと有るが、其れ以外の刀剣の事は基本的に大の歴史好きでも無ければ、政府職員でも知らない事は多いのだ。
「まさか、御存知無いの?ああ、そう。では磯波は?」
「いそなみ……ですか?」
「ええと、では、銘 末之青江は?」
「にっかり青江なら……。」
好きな刀剣を挙げているのだろうと、説明役は思うが全く分からなかった。次々に彼女が挙げた刀剣に説明役は、冷や汗を流していた。
「にっかり青江も良い刀ですけれど、ううん……蜘蛛切丸藤四郎、薄緑辺りはどうでしょう?」
「……と、藤四郎なら平野藤四郎や薬研藤四郎など、多くの短刀が……。」
「ん、粟田口吉光は多くの短刀を産み出していますものね。平野藤四郎、御物ですね。そして薬硏藤四郎……へえ、成る程。」
この成る程はどう言う意味だろうか、何て聞けるはずもなく、説明役は愛想笑いを浮かべていた。
「つまりは、阿蘇の螢丸も?」
「蛍丸!はい!」
その言葉に頷き何故聞かれたかに思い至る。2016年の彼女の居る時代に、現存しない刀だ。2015年にクラウドファンディングがスタートし、2017年に復元されたと資料に有った。
「螢丸は復元の計画が進んでいるものね。」
「はい!クラウドファンディングで予定以上に集まって確り進みました!」



***
2021/01/23 up
2021/01/24 最終更新