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ああ、本当にこの男が未来人だと言うなら螢丸の復元は上手く行くらしい。と夏海は疑心暗鬼のままではあったが、そう成れば良いと願った。
其れにしても、聞く限りでは過去の人間を未来へ連れて行こうと言うのだから、切羽詰まった様子に思える。其の割には随分と説明に時間をかけるものだ。やはり全て分かっているのか、と夏海は癪に触った。
27歳に成って直ぐの未だ残暑の厳しい季節に、男は再度訪れた。そしてソハヤノツルキ及び大典田光世の協力を得られたと言う事を伝え、忙しいのかさっさと帰って行った。其の様に時折訪ねて来ては新たな刀剣の付喪神、既に協力している刀剣の付喪神の名を幾つか伝えて、夏海はこの刀剣は居ないのかと尋ねると言う事を繰り返した。
そんなやり取りを繰り返す事、1年。説明役に見せられた審神者養成所の資料に有った、過去出身審神者候補者向けの学級の説明には、戦国時代から平成まで幅広い世代が一纏めにされているとしか読み取れない文章に、夏海はぞっとした。
現代の価値観に少しでも近付いたのは、徳川綱吉の代に行われた政策によるモノであったり、江戸時代に培われた生活習慣や文化からだ。案外江戸時代と言うのは最近だ。何しろ例の関ヶ原の戦いは西暦1600年に起きた出来事である。この国の歴史を考えれば、たったの400年だ。飛鳥時代何て西暦600年頃から銅和の約100年間であり、其の次は奈良時代の約80年間、平安時代の約390年間、其の後にやっと鎌倉時代になる。
奈良時代の終わりから鎌倉時代の始まり程度の時間しか経っていないも同然なのだ。其処から更に2200年代初頭ともなれば、夏海の生きる平成の世から見ても、様々な事が大きく変わっているのは明らかである。
この一緒くたにされる過去出身者なる区分の中で一番新しい世代たる己れですら、この時の政府とやらの中から見れば時代劇の中の人間に他ならず、其れでいて、戦国の世等と言った喋り言葉すら通じるやら不安であり、更に血の気の多いであろう人間達と過ごさねばならないと言う事になる。
ちょっと、いいや、非常に危険な事だと感じた。其の辺りのフォローはしているのだろうかと男に聞けば、2200年代の常識等を理解して貰うためのカリキュラムも確り組んであると言う。いやはや、1年で全て叩き込むのは難しいのでは無いか。つまりは、其処まで戦況は悪いのだろう。そう思うと、夏海は此処まで断るのも悪い気がして来た。こんな武術ですら嗜む事もない己れですら軍人として取り立てようと言うのだから。
「1年下さい。私にも準備が有ります。」
丁度、夏海が尋ねた燭台切光忠の話をしていた男に、そう伝えれば、大喜びで必要な事が有れば手伝うとの事だった。遠慮無く、同じ学級になりそうな者達の生まれ育った時代と、境遇、出来れば素性を知りたい旨を伝えたが、時代だけしか教えられないと言う。まあ何も知らずに行くよりは良いかと了承した。
其れから丸っと1年間、各時代の歴史に風習、と多くの事を調べ続けた。
息抜きに怪談話を始めとした四方山話を読んだりもした。此れは此れで、各時代に有る伝承等も読む事で楽しみつつ、情報収集になった。本を読む事は嫌いじゃない。そうしている内に、とあるブラウザゲームに辿り着いた。其の名は刀剣乱舞。出て来る名称も用語も粗方同じだが違う事も有った。一部例えるなら、ゲームでは内番の人数が2人ずつと言う無理のある人数だが、前に男から見せられた資料では人数制限は無かった。まあ、ゲームとして成り立たせる事と実際の生活では全く同じとは行かないのは当たり前だろう。
若しかしたら、と思い、鍛刀レシピ及び刀装レシピなる物や、初心者向けを始めとした各時代やイベントの攻略をノートに書き綴った。全部が全部、使えるとは思わないが、参考になる可能性も無くは無い。けれど、不思議とこのゲームをプレイしようとはならなかった。こんなに何年もかけて嘘だったと言うのは非効率的であるし、何より本当に刀剣男士と言う存在に協力して頂くのであれば、この画面の中の本丸を気にせずに対面したい。騙されていたとしたら、改めてゲームをプレイしてみれば良いのだ。
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2021/01/24 up
2021/01/23 最終更新