審神者は斯く戦えり

※主人公は政府お抱えのヒロインベースの未婚

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備前翠玉は見た目の儚さに依らず、戦闘系審神者として自身の刀剣男士達と共に戦場を共に駆けるのが常だった。
故に、自身の刀剣男士達の中で近侍を務める者とは別に佩刀役も日替わりで選んでいた。行く戦場によって変わるだけではあるが、主に佩刀されると彼らはこと喜んだ。刀としての本能がそうさせるのだ。そして、翠玉が好んで握るのは自身の身の丈、およそ二倍程もある大太刀だった。母の本丸にて読んだ刀剣の逸話から、殿(しんがり)を務め果てた真柄直隆に強く興味をひかれたからだ。その気持ちが、大太刀すら振るう力に繋がっているのだ。
この日は城下町の戦場へ行く予定だった故に髭切と膝丸の二振一備を腰に据え、薬研藤四郎を懐に、姫武者の出立ちで大手門に有る転移ゲートを潜り戦場で指揮を執り、敵を屠っていた。そしていつも通りに進み帰還した筈だったが大手門を潜った直後、何処からか遡行軍の軍勢が雪崩れ込んで来た。対処をしてもしてもキリが無かった。遡行軍を相手取って丸一日、流石に無傷とは行かず手入れ部屋は稼働しっぱなしで手伝い札なぞとうに切れた。資材はたんまり有るがジリ貧になっている。逃げ出す為にゲートを開けるにも政府の施設や他の本丸へ雪崩れ込まれてはならぬ。手詰まりではあったが、此処で少しでも敵を減らし続ける事が己らに出来る残された唯一であると、翠玉は部下を鼓舞した。
けれど、さしもの戦闘系審神者として名高い翠玉と言えど傷付いた刀剣男士達を手入れしながら補給も無しには終わり等見えて居た。分かって居た。死地であると、己らが既に死兵であると。其れでも刀剣男士の子でも在る翠玉は戦いを止める等、思い付きはしなかった。母に流れる薩摩の血の影響も有ったのかも知れぬ。母も中々の戦闘系審神者であった。
「私は此処だぞ!貴様きさんらの狙いは審神者だろう!」
手入れ用品を担ぎ、何とか顕現を解いた折れる寸前の持てるだけの幾振りかの刀剣を身体に括り付け、己が佩刀達を握りしめ、蛭巻きの痛み等とうの昔に感じなくなった筈の掌に感じる痛みを気にする事もせず、流れる血を拭う事もせず本丸を駆けていた。

「な、」
踏み出した足が踏んだのは、本丸の土でも無ければ畳でも板の間でも無かった。真白い床だった。真っ直ぐ向こうには眼鏡の男が新聞を読んでいた。その新聞には大きく「本丸襲撃」の文字があった。政府にこの様な場所が有るのだろうか?知らない男だ。こいつは誰だ。味方か敵か、と一瞬で考えるが、男は此方を見やると「次」とだけ言った。
「待て、此処は何処だ。私の本丸はどうなった!せめてコイツらの手入れを!おい!手前てめえ、聞いとんのか!」
身体が妙なゲートに吸い込まれて行く。抗え無い。叫ぼうが男は微動だにしない。

どさりと落ちたのは草の生えた土の上だった。呻めきは喉の奥でくぐもった音になるが立てぬ程では無い。髭切を杖に立ち上がれば、畑が燃えていた。髪の長い隻眼の男が笑って畑を見ている。

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2020/11/22