種籾は食うべからず 1

大昔は島津に仕えていたと言う先祖が居ようと夏乃の生まれた頃には、農作をして食い扶持を得るのが岩切家の常となっていた。いくら神主をしていようが耕さねば飢える時代を経て、農業の傍らに神社の管理もしている様な2003年頃に夏乃は、半ば拉致の様に召集された。その時から審神者なる者として兵を率いて戦い続けて早十年。二十五歳になった夏乃は今日も種籾を種まきの前の祈祷をする為に運ぼうと一俵担いで歩を進めたその時、知らない白い廊下の様な間に居た。

デスクに着いていた眼鏡の男に尋ねる間も無く、開かれた扉に吸い込まれて何処ぞへワープした。

「な、何が…(此処は何処?)」
腰には誉の御褒美として佩刀している刀剣が有るのは幸いだった。荷物になる俵を術で祈祷の為の道具を入れていた風呂敷の中の符に仕舞う様に封じ、辺りを探ろうと歩き始めた。そこは森のすぐ側だったけれど、如何にも空気が違うと感じた。そして漂う血の匂い。近付いてみれば其処には赤い備に丸に十文字……仮に島津と呼ぼう。其の男を担いで行こうとしている金髪に耳の長い男の子が二人居た。こっそりと着いて行ってみれば、知らない言語を話しているのが分かった。
そして遅々として進まない歩みに、痺れを切らして歩み寄った。身振り手振りで男を代わりに担ぎ、彼等に案内を頼んだ。良く鍛えているのだろう、島津は重たかった。

そして、木の上から少年に声を掛けられ、出てくるドリフターズの単語に脳内でカトちゃんの髭ダンスが過った。良くわからんままに、少年に案内されてボロボロの建物に島津を運び込んだ。オッサンが居たので驚いて思わず島津を落としそうになって慌てて抱え直し、床に寝せた。
「はあ、何で木瓜紋があるのか……此処は何処なのか、知りたいけど其れよりも帰りたーい。知らずに帰するか?否、知ろうが帰る」
とか何んとか呟いていたら、少年がバッと振り向いた。
「何?!日の本言葉喋れるんじゃないか!」
「うん?さっきの君の言葉分からんかったのですが?」
「ほお、日の本の女か?どの時代から来た?」
「2205年です」
「いつじゃ?」
「さあ?」
「ええと、それでは何か戦や乱を言って下さい。其処からだいたい何年後かを言います」
「桶狭間にて今川を織田が破ったやつ」
「あの桶狭間は……宗三左文字の時の…ああ、645年後ですね」
「待って?元暦二年の屋島の戦いは?」
「あ、有名な那須与一の扇射りですね…ええと1020年前です」
「ほおー、随分とまあ先の世だな。」
「まあ、未来だろうが立場によっては戦三昧ですよ。戦える奴は国防の為に戦う。戦えない奴は戦いがある事すら知らされず、ただ税を納める」
「其れを知っていると言うことは…」
「此れでも色々と優秀でして!神事から畑仕事に戦働き、何でも御座れと言うか、させられてたって言うか」