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次に気が付くと、海の中だった。まるで初めてこの世界に来た時のような状況に笑ってしまう。だが私はいいとしてもエースが危ない。私はやっとのことでエースを引き上げるとストライカーに載せた。どうやら私を探して海に出ていたというのは本当らしい。エースが意識を取り戻すと、私達は二人揃ってモビーへと帰還した。

モビーの甲板を上がると、大歓声が私達を包んだ。仮にも私は海軍に囚われた身だったのだ。きっと原作でエースが生還していたらこんな雰囲気だったのだろうなと思いながら、私はみんなの中を進んだ。

「しかしお前、本当に大変だったんだぞ! 海軍に護送されてるところを襲撃して、取り返したと思ったらいなくなっちまって。それでエース隊長が海へ出たんだ」
「へぇ……そうだったんだ」

私が言うと、エースは居心地が悪そうにそっぽを向いた。頂上戦争に乗り込む白ひげ海賊団とだけあり、海軍の軍艦を襲うのも抵抗がなかったようだ。私のためにそこまでしてくれたと思うと少し嬉しい。すると二番隊の隊員が顔を出した。

「それで、どうなったんだ? エース隊長と名前の方は」
「え?」
「だってエース隊長、護送船を襲撃する時『惚れた女を見殺しにしろってか!』って言って追いかけたんだぜ?」

私がエースを見ると、エースは気まずそうに目を逸らした。周りからは冷やかすような声が上がる。エースが船に着く前に「少しうるせェかもしれねェが気にしないでくれ」と言っていたのはこういうことだったのかと理解した。

「名前の帰還とエースの春にかんぱーい!」
「すんな!」

私達を置いて、周りはすっかり宴のような雰囲気になっている。一応この宴の主役ではあるので、私は勧められるままに肉や酒を口にした。エースが食べているのは勿論のことだ。

「ていうかエース、名前と手も繋げてないんじゃねェか? だって名前に触れたら力が抜けちまうし」

一人がそう言うと、周りからは大きな笑い声が上がった。確かに私達は素肌で触れ合ったことがない。でも元の世界にいた時は能力が発動しないのか手を取っても平気だった気がする。

「名前がコントロール覚えるまで我慢だな、エース!」
「あーうっせェ! おれはあっちで食べる!」

エースは宴を抜け、食べ物を持って甲板の端へ行ってしまった。このまま宴の中心にいるのでは面倒だと判断したのだろう。確かに照れくさいが、私としてはエースが私のことを大事に思ってくれているということを聞かされるのは嬉しい。しばらくは宴の中心でみんなと話していた私だったが、みんなが酔い潰れ始めた頃を見計らいエースの隣に行った。

「宴はいいのかよ」
「もうみんな潰れてるよ」

夜風がエースの髪を揺らす。私の手が、エースの着けている腕飾りにぶつかった。エースの手はもう触れられそうな距離にある。

「ウミウミの実のコントロールができてるか、試してみる?」
「そういや最近やってなかったしな」

私達は見つめ合うと、いつものように掌を合わせるのではなく手を握った。触れた部分からエースの体温が伝わってくる。エースは地面に倒れることなく、私を見ている。

「これでようやく成功、かな」
「だな」

エースはそう言って唇を重ねた。時間にしてほんの一秒の、短いキスだった。