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一人涙を流していた時、後ろから「自分で身代わりになったくせに何泣いてんだよ」と声がした。ありえないと思いつつも後ろを振り返ると、そこにいたのはいつもの半裸姿のエースだった。

「何で……」

生きていてよかったとか会いたかったとか伝えたいことは沢山あるのに、私の口からはそれしか出てこなかった。エースは帽子を被り直し、私の方を真っ直ぐに見ながら言った。

「名前を取り返したはいいけど意識が戻らないままある日突然消えたから探しに出たんだよ。そしたら大渦に巻き込まれて、気が付いたらここだ」

以前はあれだけ興味深そうに私の世界の話を聞いていたのに、エースは今いる場所がどこなのかなど何も気にしていないようだった。その代わりに鋭い瞳で私を射抜くと叫んだ。

「何で身代わりになろうだなんて思った! お前が身代わりになって、それでおれが満足するとでも思ったか!」
「だって……私はエースの世界の住人じゃないもん。私は生きてる世界が違うんだよ。本当は、存在しちゃいけないんだよ」

私が涙を流しながら言うと、今度こそエースの怒りに触れたようだった。

「世界が違うんだかなんだか知らねェが存在しちゃいけねェ人間なんかいるもんか! お前はおれに必要なんだよ!」

私は驚いて目を見開いた。エースが私に言った言葉の温かさにではない。エースが、「存在してはいけない人間などいない」と考えていることに対してだ。

先程読んだONE PIECEの原作通りなら、エースはゴールド・ロジャーの息子に生まれ、「自分は存在してもよかったのか」という問いを抱き続けるキャラクターだった。それが頂上戦争を通して自分が愛されていることを知り、最後に「愛してくれてありがとう」と告げて死ぬキャラクター、それがエースだった。しかし今、エースは頂上戦争を経ていないのにそれらのことを知っているのだ。これは何の因果だろうか。

呆気に取られる私の手を取り、エースは「戻るぞ」と言う。

「戻るって……モビーに……?」
「当たり前だ!」

エースはそう叫んでから、私の部屋の窓枠に座った。

「今度はただ船に誘うんじゃねェ。海賊としての勧誘だ。お前の意思で、一人の男として生きていくことを決めろ」

エースは海賊になる以上女も男も関係ない、海へ出る覚悟を決めろと言いたいのだろう。だが私の頭に過ぎったのは、ある意地悪な質問だった。

「エースは私が男になってもいいの?」
「なッ……!」

案の定困っている様子のエースを見て私は口角を上げる。どうやら、異性として見ているのは私だけではなかったようだ。私は立ち上がるとエースの手を引いた。

「嘘嘘。さ、モビー戻ろ」
「お前なァ……!」

二つの世界を自由に行き来できるわけではないが、こうしていればONE PIECEの世界に戻れるのではないかという気がした。二人共生きたままONE PIECEの世界に戻るというのは、あの世界のルールのようなものに反する。だがそれは私がこの世界でも生きていたらの話だ。私は元の世界で完全に消える代わりに、エースの隣で生きていく。意識が遠のいていく感覚に見舞われながら、私はこの世界にさよならを言った。