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 戦いが終わって数日、ワノ国はお祭り騒ぎが続いていた。カイドウを倒せたこと、自分も戦えたことに達成感はあるが、依然消えないわだかまりはある。カイドウを倒した今、麦わらの一味とハートの海賊団を繋ぐものはない。もう、ローと一緒にはいられない。

 ルフィを助けてと言ってからどこか調子を悪くしていたものの、私とローの仲は良好だった。以前のようにからかいもするし、時折本気のような言葉もにじませてくる。喧嘩のようになっていたものの、お互い大戦闘を終えたことで打ち切りになったのだろう。もう、私はローに縋ったりしない。自分の無力さを棚に上げて、ローを責めたりしない。

「まだいたのか、ユースタス屋」

「あ?」

 ローと港に着くと、キッドがそこに佇んでいた。出航の準備が難航しているのはどこも同じなのだ。私は心のどこかでそれに安心している。

「ビッグマムの前では片頭痛起こしやがって……」

 この三船長はお互いにいがみ合うことしかできないのだろう。ローの言葉に、すかさずキッドが噛みつく。

「あれはホーキンスの野郎の技だ! テメェだってこいつが人質にとられたら動けなくなるだろうが」

 キッドが私を指差す。ローは何か言い返すかと思ったが、そこで黙り込んでしまった。やはり、私との関係性や気持ちを言葉にするのは抵抗があるようだ。

「出航の準備をする」

 私達はそれぞれの船に別れ、荷物を積み込む。出航まであと数日というところだろうか。ナミやロビンには、時折「いいの?」という言葉をかけられていた。それが何を指すのかはわかっているが、私は知らないふりをした。麦わらの一味でいる以上、私情を優先させるわけにはいかないのだ。それなのに、時折視線をポーラータング号の方にやってしまう。あと数日で、私とローの日々は終わる。次に生きて会える保証はない。

 それでも、何かの約束をするには私はあまりにも弱かった。いざという時麦わらの一味よりローを優先する度胸もなければ、この海を生きて渡れる自信もない。もう思い出は沢山あるから、自然に別れたい。

 ルフィが船の進路を決めた日、私はサニー号に向けて歩き出した。一歩が重く感じる。別れの言葉はなしでいい。

 と思っていた時、不意に腕を引かれる。私はその力で誰なのかわかっていた。女を物陰に引きずり込む手口は、流石海賊といったところだ。

 ローは荷物の影に身を潜め、私へ顔を近付けた。誰が聞いているわけでもないのに小声だった。

「おれは海賊だから悪いことしかしねェ」

 心臓の鼓動が高鳴る。私はこれからローの手にかけられてしまう。これから一生苦しむとわかっていて、呪いを受ける。

「名前が好きだ」

 その言葉を聞いた瞬間、私の胸の中から喜びと諦めに似た感情が湧き上がった。私はこれから危ない海でローを気にかけ、ローに心を奪われながら生きていかなければならないのだ。もう聞かなかった前には戻れない。私も好きだ、という気持ちを手を握って伝えた。多分、言葉にしなくてもローはわかっている。

 ローの力が緩んだので、私は物陰から飛び出し何事もなかったかのようにサニー号に乗りこんだ。冒険は次へと続く。純粋で重い想いをのせて。

「出航だ〜!」

 これからの私の人生に、トラファルガー・ローはいる。