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お互いに恋愛に不慣れなのもあり――と言っていいのかは分からないが――私達は少しお喋りをして片付けをするとすぐに解散した。別にその場でセックスをしてもよかったし、半分くらいはその気で来たいたが、高校時代の後輩といきなりセックスをするのは何だか気が向かなかった。幸い家は近いのだし、これから過ごせる時間は沢山ある。私は家に帰って風呂に入ると、影山君の彼女になったのだと実感した。高校時代を一緒に過ごしただけに、何だか恥ずかしさのようなものがある。だけどまたそれが気持ちいい。

その週の真ん中の水曜日、「今日行ってもいいですか」とのメッセージがあり、私は影山君を家に招くことになった。今まで散々来ていたというのに、恋仲になった途端緊張してしまうから不思議だ。影山君はいつものように呼び鈴を鳴らしてローテーブルに着くと、私が出したご飯を美味しそうに食べた。帰り際鍵はいらないのか尋ねると、影山君は真っ直ぐに私を見ながら言う。

「俺、今日締め出されて来たわけじゃないんで」

その言葉に胸の奥が疼くのが分かる。「それじゃ」と出て行く影山君の背中を慌てて引き止めると、私はとあるものを渡した。

「鍵?」
「うん、私だけ持ってるんじゃ不公平だと思って」

それは私のアパートの鍵だった。影山君の家の鍵の前では古臭い私のアパートの鍵など恥ずかしいくらいだが、これで私達は互いの家の鍵を持っているという意味で平等になった。何もないのも寂しいと思って、私が影山君の鍵に付けているのとセットのクマのキーホルダーを付けている。影山君が持つにはファンシーすぎる気がするが、牽制という意味ではいいだろう。影山君はクマを見てふと笑った後、「ありがとうございます」と言って家を出た。夏の初めの夜の話だった。


私と影山君が出会ったのが新生活が始まったばかりのことなので、もう互いの家を行き来するようになってから数か月が経ったことになる。付き合ってからも約一ヶ月が経った。私達はキスは何回かしたものの、まだそういったことはしていない。これは社会人として遅いのだろうかと思いつつも、やはり高校時代の部活仲間だということがストップをかけているような気がする。影山君の家に行く日、私はささやかな抵抗にノースリーブの服を着て家を出た。こんなもので影山君が釣れるとも思わないけれど、何もないよりましだろう。いつものようにエントランスを通って、私は影山君の部屋の前へ行く。するとドアを開けた影山君が、今日は違う表情をするのが分かった。これはもしかして、ノースリーブの効果だろうか。それとも、私達にもそういう時期が来たのだろうか。

影山君の手によって中に入れられると、私は影山君に抱き寄せられる。そうなりたいとは思っていたものの、いきなりこんな荒々しい展開になるとは思っていなかった。前にある影山君の顔があまりにも整っていて、期待していたくせにいざ目前にすると逃げ出したくなる。

「あのっ、鍵! 鍵閉めなきゃ」

私が何とかひねり出した言い訳も、影山君によって封じられてしまう。

「オートロックですから」

その言葉と共に、私達の唇が触れ合う音がした。