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べそべそと泣きながら文句を言う名前を宥めながら、侑は夕食を終えた。練習したと言うだけあり名前の手料理は美味しかった。早速名前にそう伝えたところ、「うるさい」と涙ながらに言われた。多分今日は何を言ってもダメな日だ。それでも名前を可愛いと思ってしまうのは、侑が相当ダメになっている証拠だろう。

名前を先に風呂に入れ、侑は皿洗いに勤しむ。あれだけ怒られた後だというのに、というか怒られている最中も侑の男の部分はしっかりと反応していて、少し情けない気分になる。結局男とはそういうことしか考えられないのだ。しかしもし今日セックスをするのなら、それはただのセックスではないだろう。侑と名前の真実を告げてから最初のセックスだ。可能ならば今日やってしまいたい。が、名前の機嫌を損ねないだろうか。

「風呂ありがと。侑はどないする」
「俺は、後で入る」

それが時間を置いてからという意味ではなく、名前とセックスをした後に入るという意味だということに名前は気付いているだろうか。名前は適当に返事をしてリビングのソファに座った。その後ろ姿に近寄り、名前の上半身に抱きつく。

「なぁ、セックスしよ」

名前から侑のボディーソープの香りがする。好きな女から自分の香りがするというのは、こうも男を興奮させるものだっただろうか。

「……さっきの話聞いて今する?」
「嫌ならやめるけど」

そう言うと名前は黙ってしまったので侑は名前を抱き上げてベッドへと下ろした。先程から思っていたことだが、今日はやけに静かだ。やはり怒っているのだろうかと名前の顔を見下ろした時、顔を赤くしてこちらを睨む名前と目が合った。

「ほんま、慣れすぎやろ」
「いや名前の方がめっちゃ慣れとったやん」
「その話は今言わんといて!」

付き合って初めてのセックス――名前にとっては二度目だと思っていたセックスのことには触れられたくないのか、名前は腕を振って抵抗した。

「いつのまにあんな大胆に男誘うようになったんやろて俺ショックやったわ」
「侑のせいで二回目だと思ってたからやろ!」

名前は侑の胸をバシバシと叩いて叫んだ後、顔を手で覆った。

「今更どんな顔すればいいのかわからん。私と侑がちゃんとするのなんか、初めてやんか……」
「実質処女もらえてお得やわ」

そう言って名前に顔を近付けた侑を名前が止めた。

「今度はもう、嘘はなしやで」
「わかっとる」

侑は名前に口付け、ふと下半身に手を伸ばした。まだ十分には濡れていないが、少し湿り気を帯びたそこ。侑は手入れした指で優しく撫でてから、枕元の引き出しを引いた。

「ほんまは中に出したいけど、今は我慢や」

明確に侑と将来を共にしたい意志を示した名前に対して、侑の言い方はまどろっこしいだろうか。けれどこれが「慣れている」と言われた侑の名前へのアンサーである。目指す所は同じだ。後は二人で信頼を築いていけばいい。最初に騙してしまった分も、ずっと。今はそれどころではないという名前の額に一つキスを落としてから、侑は名前の服に手をかけた。