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女子高生の行動力とは物凄い。期日まで待つはずが、期日まで一週間半の余裕をもって私は治を呼び出すことになっていた。実際、友人達には誤魔化そうと思えば誤魔化せる。それでも友人達の言う通り治を呼び出そうとしているのは、心のどこかで治にこの想いを伝えたいと思っているからなのだと思った。

「わかった」

昼休み空き教室に来るように頼んだメッセージに、治はそう返した。その返事をもう一度見てから、私は教室を後にした。背後では、友人達が「頑張れ」と手を振っていた。

治は先に空き教室に着いていたようで、私が来るのを確認すると体の向きを変えてこちらを見た。治は急かすことなく、ただ私の言葉を待っている。話し出さなければと思うのに、最初の一言が出ない。

「えっと……」
「好きな奴できたんか?」

治の一言に私は目を丸くした。それは思ってもみない可能性だった。だが好きな人ができなければ付き合うという約束の中呼び出されたら、そう思うのかもしれない。

「ちゃう! むしろ逆や!」

私は慌てて否定する。そこで今度は治が目を見開いたことで、私は墓穴を掘ったことを知った。これでは、治を好きだと言っているのと同じだ。

「あー……せや、治を好きになってもうた。なんか告白ってうまくできんな、治どうやってやったんや」

緊張からか私の口はよく回る。そんな私の様子を見て治が笑った。

「分かっとったよ。苗字が俺のこと好きなんは」

今度はまた私が驚く番である。私は一歩後ずさりながら、信じられない思いで口を開いた。

「し、知ってたんか?」
「ああ。苗字の様子見てたら、大体」

治と私はクラスが違うのであまり会うことはない。恐らく初めて治が好きだと自覚した時から、今日の様子までしっかり治に観察されていたのだろう。百戦錬磨のモテ男を前にしては、恋愛初心者の私などちょろいものだろう。意図したものではないと分かっているものの、はめられた、という気持ちが私の中で渦巻く。

「じゃあ何で最初好きな奴できたんかって聞いたんや! 治って優しいくせにそういうとこ意地悪や、ほんま」
「俺のこと、優しいって思ってくれてたんや」

治は嬉しそうに頬を緩める。だが私は揚げ足を取られたような気分だ。

「そういうとこ!」

私が治を指差すと、治は一歩、また一歩と私に近付いた。私は天敵に捕捉されたような気分になりながら立ち尽くす。治はこれから、何をしようというのだろう。体を強張らせる私の頭に軽く治が手を置いた。

「これから、よろしくな」
「よ、よろしく……」

そう言うと治は満足したように笑って空き教室を去ってしまった。残された私はその場に座り込む。今、何をされるのかと思った。きっと治のことだから、経験値の低い私に合わせて何もしないでいてくれたのだろう。呆然とした頭の奥で、友人達には何を報告しよう、頭を撫でられたことは私だけの秘密にしよう、と考えた。