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それは仙台での試合後、影山の来訪を聞きつけて駆け付けた菅原と話をしている最中の出来事だった。

「ダメだよお前、あんなんじゃ」
「何がっスか」

菅原は今はバレーを離れているとはいえ、かつては影山とポジションを争ったチームメイトだ。菅原によって救われた場面も多々ある。菅原の言うことならば、影山は素直に聞き入れることができるだろう。

「さっきの、サイン貰いに来た女の子達への対応だよ。いくら何でも塩対応すぎんだろ。ぱるるもビックリだぞありゃ」

どうやら菅原がダメだと指摘しているのは影山のプレーではなく、ファンへの対応らしい。プレーに対してはそれなりに自信も向上心もあるが、ファンサービスというと影山は自信がない。対して菅原は昔から人に取り入るのが上手く、誰からも好かれるタイプだ。ここは助言を求めて損はないだろう。

「どこがダメっスか」
「全体的に素っ気なさすぎ。『応援してます!』って言ってくれた女の子に『あざす』だけって、それじゃ足んねえだろ」

試合に来てくれるファンというのは、普段から影山を認知し、人によっては遠くから試合会場へ駆け付け、安くはないチケット代を出して影山に会いに来てくれる。それに対して「あざす」だけでは確かに足りないかもしれないが、影山はどうしたら応えられるのかわからない。

「どうしたらいいスか」
「そこはストレートに、『俺も好きです』とか言ってみろ! 人気急上昇間違いなしだから!」

バレーで認められればファンの間での人気はどうでもいいのだが、確かに影山を応援してくれる人は、有難いし好きだと思う。

「あざす。やってみます」

こうして影山のファンサービス作戦が始まったのである。


次の試合は東京で行われた。東京となると会場も大きいし、観客の数も多い。この中にもきっと影山目当てに来てくれている人もいることだろう。辛勝で試合を終えると、観客席の方から数人が近寄ってきた。この人達が、影山やアドラーズを応援してくれている人達に違いない。スーツ姿の男の人を携えて、影山と同い年くらいの女の人が影山に近付いた。

「おめでとうございます。影山選手、素晴らしい活躍でしたね」
「あざす。俺もあなたが好きです」

そう言った途端、スーツ姿の男達、アドラーズのメンバーの間に沈黙が訪れる。影山は今何かまずいことを言っただろうか。この人は影山のファンで、影山は菅原に教わったファンサービスを試しているだけで、別に何も変わったことはないと思うのだけど。一つ言うならば、女の人は影山が好きとは言わなかったから「俺も好きです」と言うのはおかしいか。静寂の中心で女の人を見ると、女の人は上品に笑っていた。
するとキャプテンの昼神が駆けつけ、影山を押し出すように影山と女の人の間に入る。

「すみません、苗字さん。こいつ何かと抜けてる奴でして」
「いえいえ、いいんですよ」

一体何が起こったというのだろう。置いてけぼりの影山の元に星海が並び、「あれはうちのスポンサーの娘さんだぞ!」と耳打ちした。通りで、みんなが気を遣うわけだ。緊張した様子のチームメイトを見ながら、影山は呑気にそんなことを考えていた。