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船の入り口へと辿り着けば、そこは既に血の匂いが充満していた。咎めるような視線を受けながら私はそっと船内に入り込む。私が一番最後であることは言うまでもない。そして団長の合図によりようやく出入り口が閉まり、船は本部へと帰還を始める。ここまで全てがルーティンだった。その遠い背中を見つめ、私ははあ、と息を吐いた。

どうしてこんなに嫌われてしまったんだろうか。幾度となく考えたそれに思い当たる答えはひとつ。私が弱いからだ。

戦闘狂とも呼ばれる団長は戦いに固執している。それ以上に強さに囚われている。彼が目を輝かすのは強敵と立ち向かった時だけだし、逆に言えば弱い者が目の前にいる時はつまらなさそうに目の光が消える。ちょうど私を前にした時のように。

こんな私でも第七師団に入れているのは、夜兎族が絶滅の一途を辿っているからなのだろう。第七師団としては戦闘のできる夜兎族なら弱くても欲しい。つまり絶賛の売り手市場だ。私は故郷を追われ、行くところもなかったので仕方なく春雨に入団した。まさか将来の職業が宇宙海賊だなんて思ってもみなかったけれど、待遇はかなり恵まれている方だろう。その代わり、私のことを嫌ってやまない上司に胃を痛めることになるが。

私はとぼとぼと船内を歩き自室へと戻る。皆戦闘を終えた後なのだ。夥しい量の血、と言っても殆どは返り血だろうそれを外套いっぱいに染み込ませて帰ってくる。だが私は大した活躍はしていないので洗濯機で軽く洗えばいい程度だ。シャワーを浴びる必要もない。それよりも先に訓練を行ってしまいたい。

一応春雨の機関であるこの船には、団員が自由に使えるトレーニングルームがある。だが戦闘狂として知られる第七師団の団員は一人として使用していなかった。真面目に訓練をしたい私にとって、それは有難くもある。ただでさえ弱さを理由に邪魔者扱いされているのだ。訓練室でコソ練しているなど知られた日には、団中が大笑いしながら酒のつまみにすることだろう。

服を着替えると私は宇宙船の奥にあるトレーニングルームに向かった。幸いこの辺りには機関室や調理室などしかなく、団員が近付くことはまずない。だから私は油断して気付けなかったのだ。団員は近付かなくとも、団長はどのエリアにも用がある可能性があるということに。
トレーニングルームのドアを開けた瞬間、こちらを見る団長と目が合った。

「俺、お前のこと本当に嫌いだよ」

いつもの笑みを消してそう言った団長に、私は逃げるようにトレーニングルームの中に駆け込んだ。