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 稲荷崎高校卒業式の日、中庭にはとある列ができていた。学年を問わず女の子が密集するその列は、稲荷崎で一番モテると言っても過言ではない双子、宮兄弟への告白待機列だった。最後の思い出にと集まった女子は多く、それ以外の者は「侑と治どっちが多いか」などと人数を数えたりしていた。それぞれバレーや進路に集中していたため、彼女がいないというのもまた人気に火をつける結果になったのだろう。

「無理や、私行けへんって」
「大丈夫や、みんな当たって砕けろマインドや。見てみい吉田さんを。あの子侑にブタ言われてんねんで」
「その情報のせいで余計怖くなってきたわ!」

 二人の列に並ぶ女の子は三年間片思いしてきた者から、記念に告白しておこうという者まで多岐にわたるだろう。実際私は並んでいる女の子の半数以上より相手のことを好きだと思うのだけど、どうしても列に並ぶ勇気が出ない。

「はよせんと告白タイムが終わって部活ごとのお別れタイムになってまうで。男バレなんて絶対長くやるやん」
「わかっとるけど……」

 周りの人だかりは次第に動き始め、卒業生同士の輪から後輩と先輩の輪になりつつある。皆部活のメンバーで集まり始めているのだ。二人に並んでいる女の子の列も次第に数が減ってきた。このままでは、本当に私の想いは一生秘められたものとなってしまう。

 二人の告白列はとうとうなくなり、二人はバレー部の男子に引かれて後輩と合流しようとした。その時になって、私はようやく動き出した。

「あの!」

 私が二年間想い続けた相手――宮治に向かって声をかける。しかし振り向いたのは、治の双子の兄弟・侑だった。

「何? 俺らもう部活で集まんねんけど」
「えっと……」

 治君にはない圧に私は思わず押される。しかしここで頑張らなくては、一生後悔を残したままだ。

「私、治君に告白したくて……! もう遅いっちゅうんはわかっとるんですけど、最後に少しだけ、お話させてもらえませんか?」

 私は縋るように言った。治君と話すのに宮侑の許可を取る必要は別にないのだが、治君は侑の向こうにおり、中庭全体が賑わっているため宮侑に話を通してもらうのが一番早い。

 宮侑は私を不躾な視線で見下ろすと、薄ら笑いを浮かべて言った。

「治がお前なんか相手にするわけないやん」

 私は呆然と立ち尽くし宮侑を見た。宮侑はバレー部の後輩と合流し、何やら楽しそうに話をしている。女をとりこにする甘い顔を持ちながら、宮侑はとんだ悪魔だと思った。その悪魔のせいで、私の一世一代の告白はついに治君本人に伝えることができなかった。