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 私と治君の出会いは二年の時に同じクラスになったという、ごくありふれたものだった。クラスの大半の女子の例に漏れず私は治君を好きになり、最後まで告白できないまま高校を卒業してしまった。

 噂で、治君はバレーを辞め調理の専門に行くという話を聞いた。三年の時は治君と同じクラスではなかったが、宮兄弟の噂というのはどこにいても回ってくるものなのだ。私は必死になって治君の進路がどこなのかを調べた。卒業式一週間前に得られた情報は、私が進学する大学とは県を跨ぐ神戸調理専門学校ということだった。

 卒業してすぐに引っ越すわけではないし、別に会おうと思えば会える。しかし私にはプライベートで治君を呼び出すだけの理由がないのだ。本当に、卒業式後の時間がラストチャンスだった。友人の言う通り早めに告白列に並べばよかったと後悔してももう遅い、と思いながら私は電車に揺られた。今日は実家を出て新居で暮らす最初の日だった。

 治君とは違い、これといった取柄のない私はスタンダードに勉強を頑張ることにした。その結果私にしてはまあまあのレベルの大学に合格することができたのである。場所は大阪、兵庫から新幹線と電車で少しの場所だった。慣れない都会での一人暮らしになるが、これといった不安はない。大阪に足を踏み入れつつある今も未来のことより治君に告白できなかったことを悔やんでいるくらいだった。高校で彼氏がいなかったわけではないが、恋愛経験は乏しい。大学でできた友達の話についていけなかったら嫌だなあなんて思いながら私は新居の最寄り駅で降りた。先に荷物は送っている。荷解きは明日にして、今日は新居の固い床に布団を敷いて寝ようと思っている。私はスマートフォンの地図を頼りにアパートへの道を歩いた。大阪だから治安が悪かったらどうしようと思っていたが、なかなか雰囲気のいい街ではないだろうか。部屋探しで見た建物を見つけ、二〇三の表札を探して廊下を歩く。その時、不意に二〇五号室の扉が開いた。

「あ」

 私は思わず声を出した。中から出てきたのは卒業式で会ったばかりの人物――宮侑だったのだ。相手も私の顔には見覚えがあるようで、私を見て立ち止まった後、「ああ、治にフラれてた」と言った。

「フラれてへんし! アンタが告らせてくれへんかったんやん!? むしろアンタにフラれたし!」
「俺のことが好きみたいな言い方やめーや、気持ち悪い」
「なっ……」

 私は思わず言い返そうとしたが、宮侑は私の横を過ぎ去って夜の街に出かけてしまった。その背中を見ながら、私は悪態を吐く。

「感じ悪……」

 卒業式の時から感じたことだが、あの女全体を下に見ているような物言いは何なのだろうか。今だって夜遊びに行くに違いない。折角宮侑の顔を見なくて済むと思ったのに、同じアパートに住んでいるなど最悪だ。私は晴れない気持ちで自室に入った。