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「傑が呪詛師になった」

 そう語る五条に、私は上手く返すことができなかった。信じられなかったけれど、誰よりも信じたくないと思っているのは五条だと見てわかったのだ。五条は夏油と同じくらい大事な友人だった。だから、私は何も言えず、ただ「わかった」と返事をして歩き出した。

 それからの毎日は、どこか皆精彩を欠いていた気がする。相変わらず五条は強いし、任務はなんとかやりおおせていたけれど、高専の教室にあった覇気のようなものがなくなってしまった気がした。いつも自分からおどける方ではない、みんなを笑って見守ってくれていた夏油の存在の大きさを知ったのはその時だった。

 夏油が呪詛師にならなければよかったのに。そう思うのは、夏油のことだけを考えてのことではない。夏油の唯一無二の親友・五条を見てもそう思うし、呪術界から夏油が消えて逆に敵に回ったとなれば大きな出来事だった。夏油がいれば、みんな暗い顔をせずに済む。

 私達呪術高専は、その人数の少なさゆえかつながりが強すぎていた。一人が欠けたら、全体に暗雲が立ち込めるみたいに。

 夏油が呪詛師になってから一カ月。私は任務で東北の辺境の地へと来ていた。私程度が派遣されるのだから大した任務ではなく、低級呪霊を祓って終わった。その帰りに、山の中腹にある神社に寄ったのはほんの好奇心だった。その神社には、何かを叶えてくれそうな雰囲気があるような気がしたのだ。私がそう思いたいだけだったかもしれない。

 礼と拍は何回するのが正しいのだっけ、と思いながら適当に百円玉を入れた。私が持っている硬貨ではそれが一番高かった。夏油が戻ってきてくれるなら、私は千円でも一万円でも入れられただろう。

 神様。お願いだからあの頃に戻って、夏油を止められたらいいのに。夏油が親や市民を殺さず、高専を裏切らず、私達と一緒にいてくれればみんな幸せでいられるのに。もう一度、みんなで笑い合っていたあの頃に戻れたら。今度こそ私は、夏油を助けたい。

 目を開けた瞬間、ふと空が白んだ気がした。気のせいだろうと思い直し、山を下りる。どうやらこの辺りに自販機の類はないみたいだ。あったとしても、今ので百円玉を使い切ってしまったから買えないが。

 山を下り切った時、不意に桜の花びらに包まれた。今の季節ではおかしなことだ。何かの呪いが発動したのかと身構えると、優しい笑顔を浮かべた彼がいた。

「やあ。君も呪術高専? 私もなんだ」
「夏油……」

 私は彼の名を呼んだ。彼はまるで入学式の日の朝に同じ制服の生徒を見かけた学生のように、晴れやかな顔をしていた。