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 その日、南雲はケーキを持って部屋に向かっていた。朝からケーキは重たいと思うが、そう望んだのは少女本人だ。どうせ南雲がぐちゃぐちゃのどろどろにするのだしいいだろう。

 部屋に入ると、少女はまだ眠っていた。そう思いたかった。南雲の殺し屋としての勘が、少女は死んでいると告げている。わかっているのに、南雲は普段通りにカーテンを開けてベッドに近付く。

「ナマエちゃん?」

 勿論少女からの返事はない。頬に手を当てるが、肌は冷たかった。死後硬直も始まっている。死んだのは夜中くらいか、と冷静に考える南雲がいる。その一方で明るく振る舞う南雲はまるでピエロだ。

「ねえ、起きてよ。ケーキ持ってきたよ」

 南雲はケーキを出した。今日のために数キロ離れた駅まで行って特注したもの。流石に死ぬことを祝うメッセージは入れられなくて、ただ「おめでとう」とだけ書かれている。少女の死はめでたいはずだった。それは南雲が殺すからだ。南雲の手にかからず、勝手に死んだのでは困る。殺し屋としての南雲が。南雲そのものが。

「僕は今日誕生日なんだ」

 今日は南雲の誕生日、七月九日だった。ケーキを食べる時に少女に言って、驚かせてやろうと思ったのだ。きっと少女は驚くだろうと。

 もう、少女は何も言わない。驚くことも、笑うこともない。死んだのだ。南雲によってではなく、病魔のせいで。

 殺すことすらできなかった。終わらせてあげることができなかった。そう考えている時点で、南雲は少女に情があるのだろう。出会った日すぐに殺していれば情も湧かなかっただろうに、どうして先の日に殺させようとしたのだろう。そうしたら南雲はこれほど苦しい思いをせずに済んだのに。

 苦い胸の内に反して、南雲の行動は冷静だった。ポケットからスマートフォンを出して、殺連に発信する。

「標的が死にました。任務失敗です」

 それだけ言って電話を切った。ORDERの、南雲唯一の失敗だった。少女は汚点として南雲の中に残ったのだ。

 南雲はベッドに近付き、顔を寄せる。

「ねえ、好きだよ」

 そのまま冷たい体の鼻と鼻を合わせた。キスをする気にはなれなかった。少女から合意を得られることは、もう二度とないのだから。

 南雲はどこからか花を出し、少女のそばに置いた。それからフローターではなく地元の葬儀会社に連絡を入れた。それが南雲のせめてもの弔いだった。