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眠る前も起きた後も考えるのはそればかりだった。何をやっているのだと思う。ヒュースに縋り付いた上「帰るなんて言わないで」だなんて、我ながら大胆なことをしたものだ。だがあの時私は、あれが私にできる精一杯だった。私に後悔なんてないのだ。
と考えて、私は一体何を頑張っているのだろうと思う。少なくともボーダーの一員として捕虜の逃亡防止に奮闘しているわけではないことは確かだ。私がやっているのは、恋愛の駆け引きだ。
そのまま「恋愛」と言えないのはヒュースが誰を好きかを明確に言ってくれないからだった。それを私は自分のことだと受け取り、返事に近い言葉を返した。ここで「私もあなたが好き」などと言って違ったら間抜けだし、ヒュースはどこかその言葉を恐れている気がしたのだ。だからはっきりとは言わなかった。なんとなくそんな気がする。
だが私は知っている。ヒュースがそういう時は直接言う男だということを。私だけが知っている。
――オレならばそんなまどろっこしい表現などせずに直接言う
私の中で特別だったあの思い出は、見事に私の心に刺さっていた。直接言わないのならばあれは告白ではないのだろうか。ではあのキスやハグは何だったのだろうか。もう何もわからない。窓から空を見ると、青空の中にぽつりと白い月が浮かんでいた。
「ほら名前、ご飯よ。あんたらも皿出すの手伝いなさい」
「はーい」
窓の外を見て黄昏ていたのがバレていたようで恥ずかしい。テーブルに向かうと、ちょうどリビングの扉を開けたヒュースと目が合った。
「……おはよ」
「……おはよう」
なんとか普通に挨拶は交わせている。もう昼だが、ヒュースと会うのは今日これが初めてなので関係ない。私達はもう以前のように小南からもわかるほどお互いを意識していたりはしなかった。それは私達の中で何かが吹っ切れたからなのかもしれない。その何かが吹っ切れた代わりに今度は新しい葛藤を得てしまったが、周りからバレバレの仲になるよりマシだろう。
黙々と食事をする私達を誰も気に留めることがなかった。もしまた手が触れることがあっても、私は平然としていられるだろう。「あ、ごめんね。ヒュース先使っていいよ」そんな言葉を言うのが苗字名前だ。ヒュースもまた平然と醤油を使うのだろう。
そっとヒュースを見ると、ヒュースと目が合った。私達は数秒見つめ合った後に自然と目を逸らした。私は手元のスプーンへ、ヒュースは右手のコップへ。あんなことがあった後だというのにあまりに自然すぎて逆に異常なくらいだった。このテーブルにいる誰も私達の異常に気付くことはない。秘密を共有しているみたいで、何故だか心が躍るのを感じた。