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人生で初めての一目惚れをした。その相手は強く、凛々しく、聡明で、また謙虚さも持ち合わせた人だった。そろそろ卒業をした後のことも考えなくてはならない真央霊術院の五年の終わり。私は藍染惣右介に恋をした。

私は夢中になって教壇に立つ藍染隊長を見つめていた。時期もあり、このところ護廷十三隊の人が講話に来るのは珍しいことではない。しかしその多くは戦いでの自分の活躍っぷりだったり、霊術院時代自分がどれほど苦労したかということを好んで話した。最後は必ず護廷に身を捧げよという話で終わり、私達の実になる話はあまりなかった。

しかし藍染隊長はどうだろう。霊術院時代自分はどのように鍛錬を行っていたか、所属する隊はどのように選んだかなど私達の知りたい情報を的確に教えてくれた。また聞く人を飽きさせない話術には誰もが圧倒された。現に、藍染隊長に恋をしている私以外の同級生だって藍染隊長の話の虜になっている。

皆がメモを取りながら藍染隊長の話に聞き入っている中、私はただ藍染隊長の一挙一動を見守っていた。もはや藍染隊長の有難いお話は耳に入ってこない。私の頭の中にあるのはただ、自分がこの人に恋をしているという事実のみだった。

時々藍染隊長がこちらを向くと心臓が跳ねる。今、私は藍染隊長の視界に入っているのだ。藍染隊長から私はどんな風に映っているのだろう。自分の話を聞かない頭の悪そうな女の子? その他大勢と変わらないただの一生徒? 藍染隊長から見て、ほんの少しでも他の女の子より可愛く映れていたらいいな、なんて浮ついたことを考える女は嫌いだろうか。

藍染隊長がいれば、いつもの教室も宮殿のように感じる。「じゃあ以上で僕の話は終わり。みんな頑張るように」との一言であっけなく講話が終了した後も、私はまだ夢の中にいるような気分だった。

「ねえ、すごくなかった? 藍染隊長の話」
「うんうん、本当聞いてて夢中になっちゃった! 私も藍染隊長の隊で働きたいなあ」

周りもすっかり藍染隊長一色で、とことんそのカリスマ性を感じさせられる。今日の講義は全て終わったと帰路に着く同級生が多い中、私は熱に浮かされたように真逆の道を辿っていた。もし霊術院の教師の誰かがふらふらと応接室に向かう私を見ていれば間違いなく止められただろうから、教師の誰にも会わなかったのはラッキーと言う他ない。

勢いに任せて応接室の前まで来ると、今になって緊張がやってきた。この中に藍染隊長がいる。果たして彼は何をしているのだろうか。難しい資料を読んでいるのか、お茶を飲んでいるのか、それとも霊術院の誰かに先程の巧みな話術を披露しているのか。高鳴る心臓に背中を押されるようにして、私は震える手をドアノブに掛けた。その瞬間、後ろから少年の声がした。

「何してん? アンタ」

その風貌は間違いなくまだ成長途中の子供なのだが、驚くべきことに死覇装を着ている。一体どういうことなのだろう。数秒戸惑った末に、きっと護廷十三隊のお偉い方のご子息だろうと見当をつけて私は話しかけた。

「あのね、藍染隊長どこに行ったか知らない?」

彼の年齢のわりには少し子供じみた話し方になってしまったかと思ったが仕方ない。私は子供と関わる機会など殆どないのだ。しかし彼は気を悪くした風もなく言った。

「藍染隊長なら教務室行ったで」
「ありがとう!」

礼を告げると彼に背を向け、また勢いのまま走り出した。後ろであの少年が笑っていることも知らずに。