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実家で大人しく過ごしている間に、昨夜の記憶は次第に紐解かれていった。まず、飲み会では派手に酔っ払った。この時点で既に黒歴史の類ではあるが後に比べれば遥かにマシだろう。飲み会を終え、解散する頃、侑は名前にしつこく送ると言い張った。最初は遠慮していた名前だったが、侑の勢いに押されて一緒に帰ることにした。今思えば、それだけのエネルギーがあるのなら告白の一つでもしておけばよかったのだ。どちらにしろ名前は酔っ払っているからと相手にしてくれなかったかもしれないが。

侑は名前を家へ送る最中、寄り道をして行こうと言った。名前とデートをしているようで気分が高まったのだろうが、思えばこれがいけなかったのだ。瞬く間に侑と名前はホテル街に迷い込み、ホテルの一室で体を重ねた。この時の様子を、侑は実家のベッドで昼寝している際に夢に見たものだ。あまりにもリアルで、起きた後侑はそっと下着の中を確認した。だが興奮ばかりもしていられなかった。侑が名前にしたのは、それこそ一晩の相手やセックスフレンドにするような、荒々しいセックスだったのである。

侑は、高校時代から何年も好きでい続けた女の子に酒の勢いで乱雑なセックスをした。この事実を高校生の侑が知れば、侑は頬に重い一撃を食らうことだろう。せめて告白をしてから、せめて優しいセックスであれば――。今となっては無意味なifが積み重なってゆく。侑は、今恋人がいるのに一晩の相手に名前を抱いたヤリチン野郎と名前から思われている。まずはその誤解を解かなければ。

「なあ、どっか行かへん?」

侑はメッセージアプリでそう送った。名前に個別チャットでメッセージを送るのは数年ぶりのことだった。文面はおかしくないだろうかとメッセージ画面を眺めていると、意外にも早く返信が来た。

「ちょうど暇やったしええよ」

侑は自室でガッツポーズを決めながら、実家に残っている服で良さげなコーディネートを考える。いざとなれば治から借りればいい。名前と詳細を決めつつ、侑は急いで身支度をした。


「さ、どこ行こか」
「自分で誘っといて決めてなかったん」

隣の名前から心なしか冷たい視線を受けながら侑は歩き出す。お互い地元は同じなので、集まったのは近所の公園だった。ここから行ける範囲内となると、地元の思い出をなぞるようなコースになるだろう。だがそれもいいかもしれない。繁華街の方まで出ると、名前はラブホ街を指差して「侑が行きたいのはあっちちゃうん」と言った。

「んなわけないやろ!」

どうやら、一度植え付けてしまったイメージの払拭は思ったより難しいらしい。侑はその手を取ると、握って歩き出した。名前の母校だという小学校を見に行ったり、稲荷崎に行ってみたり、途中で季節外れのアイスクリームを買ってみたり。ここが地元ではなく東京ならばもっと洒落たデートができるのに、と侑は心の中でもどかしく思った。だが、名前は案外気に入っているようでその横顔は上機嫌そうだ。これはこれでいいデートができたのかもしれない。侑が満足して別れようとした時、細い声で名前が言った。

「そうやって回りくどいことせんでも、直接したらええのに」

侑は言葉を失ったまま立ち止まる。侑は今、試されているのだろうか。それとも、誘われているのだろうか。