▼ 番外編2 ▼


稲荷崎の皆で侑の試合を見に行くとの連絡があった。皆と言っても全員が来られるわけではないが、北や角名などの侑と交流の多かったメンバーも来るという。北が来ることに若干の緊張を感じながら侑は試合に出場した。調子を崩すことなく本領を発揮し、無事チームは勝利した。今日は名前も来ているはずだから、正式に名前と付き合うことになったと報告しよう。侑は皆の待っている居酒屋の個室へ向かうと、「どもー」と言いながら襖を開けた。

「侑、お疲れ」
「今日の試合よかったで!」

口々に讃えられる中、畳の上を歩いて部屋の奥へと向かう。さりげなさを意識しつつ侑は名前の隣に座った。既に注文された料理をいくつか口へ運びながら、侑は飛ばされる質問に適当に答える。やはり今日の試合の話が多く、元バレー部の集団とだけあり話は白熱している。いつ切り出そうかと侑が躊躇っていた時、丁度よく襖が開いて侑の注文した料理が運ばれてきた。

「おっ来た来た!」

話が途切れたのを機に、侑は口を開く。

「ここで皆さんに報告があります」
「なんや改まって」
「結婚報告か!?」

周りが囃し立てる中、侑は隣の名前の手を握ると持ち上げて皆に見せつけるようにしてみせた。

「少し前から、俺の万年片思いの相手、名前と付き合うことになりました」

侑が言い終えると共に、部屋は一気に祝賀ムードに包まれる。侑が隠していなかったのもあり、侑の片思いは稲荷崎高校バレー部の全員が知るところだったのだ。祝いの言葉を受け取りながら、侑はどうもどうもと頭を下げた。名前は侑の手を離さないまま、恥ずかしそうに笑っていた。間違いなく、今が幸せだ。そんな空気の中、角名がとある言葉を発した。

「この間の集まりで持ち帰った時は付き合ってなかったんだっけ?」

その言葉に、侑の表情筋が固まる。付き合ってもいないのに酔った勢いで本命の名前と致してしまったということは、侑にとって隠したい過去なのだ。侑が何か言うより先に、「どういうことやねん、それ」と北が反応した。この時、侑は長らく感じていなかった背筋の悪寒を感じた。


「それで、セフレなってから付き合ったっちゅうわけか」
「はい……」

懺悔のように吐き出した侑の話を聞いて、北は当時と変わらない冷ややかな目で侑を見下ろした。気付けば侑は畳に正座をしており、これから来るだろう正論の数々に身を縮こめている。

「ま、侑達の恋愛事情は俺には関係ないわ。何か言うのは野暮やな」

当時のように散々に言われるのかと思いきや、どうやら北は不干渉を貫くらしい。侑は目を輝かせて北を見上げた。

「北さん……!」
「侑に対する俺からの印象は大分下がったけどな」

別の方向から思わぬ傷を受け、侑は俯く。その様子を角名が面白そうに見守っていた。こうなったのは元はと言えば角名のせいだ。

「ずっと好きだった相手なんやろ。幸せにな」

お前も、苗字も。そう言った北に侑は再度顔を上げると、威勢よく返事をしたのだった。