黒執事



 扉を開けた途端、爽やかな風が通り抜ける。カツ、カツと階段に足音を響かせると、彼の存在に気付いた御者は被っていたシルクハットを取り笑顔で出迎えた。

「おはようございます、ファントムハイヴ伯爵。本日はどちらから参りましょう?」

「おはよう、クロムウェル。今日は領土内の農地での定期報告から片付けていこう」

 左様でございますか、と御者は頷き彼に馬車に乗るように促す。開けられた扉を前に躊躇なく踏み出そうとした足は、小さな力によって押しとどめられた。わずかにたじろぎ、後ろを振り返ると無邪気な笑顔が眼下に映る。思わず破顔し、小さな頭をやんわりと撫でた。

「おはようシエル。どうしたんだい?」
「おとうさん、今日は公務に連れて行ってくれないの?」


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