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「坂田さん?」

今朝受けた依頼の仕事を終えて新八と街を歩いていると背後から急に話しかけられた。振り返るとそこには数年前に姿を消した女が懐かしい笑みを浮かべて立っていた。




「やっぱり。久しぶりですね。元気だった?」
「あ、あぁ。…おめーさんも元気そうだな。いつ戻ってきたんだよ?」
「最近だよ。今あそこの甘味処で働いてるの。この前からイチゴパフェ始めたからまた食べにきて下さいね」
「おーマジか。そりゃ行かなきゃだわ。今度寄るわ」
「うん。じゃあ、邪魔してごめんね。またね」


そう言って先程指差した甘味処に戻って行った。女というのは数年で随分変わるもんだと思った。昔より綺麗になって凛とした雰囲気を纏うようになっていた。肩までしかなかった髪は簪で綺麗に纏められていた。まだ少しあどけなかった顔立ちは大人の女と言ってもおかしくない風貌になった。どこか怯えていた表情はもうない。

ああ、そんなに月日が経ったのか。

もう戻らないと言っていたのになぜまた江戸に戻ってきたんだ。何かあったのか。それとも何かをする為に戻ってきたのか。思いや疑問が頭を支配して新八も一緒だったことをすっかり忘れていた。甘味処の方を見ていた俺の前に立ち大声で名前を呼んできてやっと我にかえる。


「銀さんどうしたんですか?さっきの女性と喋ってから黙って…。あの人誰なんですか?すごくび、びび美人な人ですね!!」
「あー…うん。昔の馴染みだ。実家に戻るって言ってたんだけどなァ。まーお前らは知らなくてもいいよ」
「え…?な、なんでですか?昔馴染みなんですよね?」


少し心配そうに、でも怪しむように俺の顔を覗き込むメガネ。アイツと新八や神楽達を関わらせるわけにはいかない。昔のことを突っ込まれると正直なところ面倒でしかないしあのお節介な奴らと関わらせたら、俺との関係を勘繰って取り持とうとするに決まってる。なんとか追求を逃れようと咄嗟に思いついた嘘で取り繕う。

「あいつァあれだ。あのー、ああ見えてすげェアバンギャルドな女なんだよ。だから新八くんにはまだ早すぎますお父さんは許しません!!」
「なんだよアバンギャルドな女って!どんな女かわかりにくいわ!!」
「いやァ、アイツはホント、恐ろしい女だったわ…」
「そんな震えるほどォォォ?!!!」

なんとか追求をかわして適当に話をしながら万事屋に帰るため足を進める。これでいい。アイツは幸せに生きるべきやつだ。俺が関わっていいわけがない。あんなに酷く傷つけたのに笑って俺の前に現れるアイツを、俺は突き放さないといけない。アイツもそれをわかっているから新八のことを聞くこともせず、果たされないと知っていながらもあんな約束をさせたのだろう。でも、出来ることなら俺の目に届かない所で笑って生きていてほしかった。


「…あんな顔見せんなよ」
「え?」
「いや、なんでもねェ。今日の晩飯の担当誰だっけ?」
「神楽ちゃんですよ。今日は卵かけご飯ですね…」
「アイツどんっだけ卵かけご飯好きなんだよもう飽きたわ銀さん」


あんな泣くのを堪えてますみたいな顔をされたら、脳の指令を無視して体が勝手に動いてしまう。今だってアイツが戻って行った方向が気になって仕方がない。引き留めて、離れていくアイツの腕を掴んで引っ張って、この腕に収めたくなってしまう。でもそれではいけないから、必死に前だけを見据えてさっき起きた出来事を忘れるように新八としょーもない話をしながら歩みを進める。

今日の依頼は風呂屋の店番で別段動き回った訳でもないのに、足は鉛のように重たかった。今すぐ寝転んでしまいたくなるほど体がだるい。きっとこれも全部、アイツの所に戻ってその身体に触れれば、簡単に治ってしまうんだろう。だがそれは許されない。再び踏み込むことをしてはいけない。いろんな思いに押し潰されそうになりながらもなんとか万事屋に辿り着いた。





もう二度と、会うことはないと思っていたのに、神様ってやつはいつも俺に意地悪らしい。